▼ *∴見られてる/にっかり青江
※審神者が色々感じちゃってる人
時刻は既に午前零時を回り、日付はとっくに変わっていた。
何だか、肩が重い。
こんな時、世間一般的な。
…いわゆる表向きの理由としては『仕事のやり過ぎ』とか『歳のせい』という具合になるのだろうが、自分の場合、そんな可愛らしいものでは片付かないのが常である。
以前は“目には見えない物”も“目に見える物”と一緒に存在しているんだろうな、という事をぼんやり認識している普通の人に過ぎなかった彼女は、審神者として初期刀に付喪神を降ろした瞬間から、何やら妙な気配を感じ取れるようになってしまった。
刀剣男士が増える度…というか、付喪神を呼び寄せる度にそれはゆっくりと強くなっていき、大分怖い思いをした後。
近侍や他の刀剣男士の強い勧めもあって、思い切って政府に苦情を申し立てはしたものの、返事は未だに返ってこない。
さて、どうしたものか。
ぐるぐる、と肩を回しながら、彼女は障子の方を見やった。
異様な気配をいくつも感じこそすれ、それらがまだはっきりと見えないのが唯一の救いである。
このままずっと審神者を続けていたのでは、いつの日か、くっきり見えてしまうようになるんじゃないか、というのが一番の心配事だけれども、それはないと信じたいものだ。
とりあえず、一人でいるのは心細くて仕方がない。
このまま夜が明けるまでこれが続く、だなんて…考えただけでも気が狂いそうになる。
そんな想いも手伝って、彼女はほぼ半泣きの状態のまま、俗に『怪奇現象』と呼ばれる物と少なからず因縁のある、あの刀剣男士の名を呼ぶ。
「青江、青江……こっちに来て、」
声が妙に震えてしまうのは致し方ない事。
冷たい汗をかきながら必死に彼の名を呼ぶと、にわかに障子の向こう側が騒がしくなった。
何を言っているかはさっぱり分からないし、分かりたくもないけれど、それらは皆怒っているかのように障子をガリガリ引っ掻いたり叩いたりしているようだ。
あまりに大きな音だから気になって、おっかなびっくりそちらを眺めた時。
ベタ…と、障子紙に、人間の物と思わしき手形がいくつも押し付けられるのがはっきりと見えてしまう。
「ひっ…………!?」
思わぬ出来事に息を飲み、咄嗟に近場にあった塩を掴んで障子になげつけるも、当然向こうには届くはずもなく。
間髪を入れず、ケラケラ、と小馬鹿にしたような笑い声が響いてきた。
やっぱり、いる。
間違いなく、いる………!
あまりの恐ろしさに声も出せず、障子越しにうっすら見える奇妙な陰に脅えながら耳を塞ぐ。
見なければ怖くない。
聞かなければ怖くない。
必死に自分に言い聞かせ、広い部屋の中で一人身を縮こまらせるが、意識すればするほど、いやにはっきりとそれらの気配が感じられた。
まるで幼子のように震え、再度塩に手を伸ばしかけた途端に一際甲高い叫び声が聞こえ、一瞬にして障子の前に陣取っていたそれらの気配が散る。
その直後。
障子を勢いよく開き、抜刀したままの青江が部屋の中に入ってきた。
月明かりを背に受け、ゆらりと目の前に立つ彼の顔はいつにもまして白く、いっそ不気味なくらいだ。
いつも通りであるはずの彼の口元には、何か含みのあるようなあの笑みが浮かんでいたが、それに相反して、目はちっとも笑っていない。
見つめられるだけで底冷えしてしまいそうなほど強い眼光を宿したまま、彼は緩く首を捻り、今しがた闇の中に散っていった得体の知れない者達を一瞥した。
「大丈夫だったかい?前と比べてまた数が増えた気がするんだけど。」
「うん。そう、だね…でも、石切丸からもらったお札を貼っておいたから、中までは入ってこられなかったみたい。」
とりあえず、彼が自らの本体を鞘に納めるタイミングを見計らって『来てくれてありがとう』という旨を伝えると、青江は何を思ったのか、ぐい、と顔を近付けてくる。
互いの鼻先が触れてしまうほどの距離に息が詰まりそうだ。
目の前には、彼の整った顔が。彼女の頬には自分の物ではない大きな手が添えられ、逃げるに逃げられない。
気恥ずかしさから目を逸らすと、今度は空いていた方の手が素早く腰に回り、抱き寄せられた。
「顔色がよくないね。やっぱり、いつもみたいに“おまじない”をしておこうか…。」
返事をやる暇もなく『君に何かあったら大変だからね、』と独り言のように呟いて、彼は音もなく障子を閉めた。
***
「あ、の………。」
「どうかした?」
青江の視線から逃げるように俯くと、先程まで自分が身に纏っていた着物が足下に散らばっているのが目につく。
ちら、と姿見の方を見やると、下着しか着けていない自分と目が合い、更に恥ずかしくなった。
彼がしてくれる“おまじない”は、なかなかの効果がある反面、全身の至る所に施さねばならないため、その時には一糸纏わぬ姿になる必要があるのだが…。
何度やってもそれに慣れる事はなく、恥ずかしくてたまらない。
「あの…やっぱり、全部脱がなきゃ駄目、ですか………?」
恥じらいながらそう問えば、彼は表情を崩さずに飄々と答えてみせた。
「君がどうしてもそのままがいいって言うならそれでもいいけど…おまじないの効果は半減するだろうね。それとも、僕が脱がせてあげた方がいいのかな?」
「け、けっこうですっ…!」
毎回こうだ。
自分だけが恥ずかしがっているみたいで泣きたくなる。
もたもたして、彼の手がこっちに伸びてこないうちに、と、彼女半ば自棄になりながら急いで下着に手をかけ、脱ぎ捨てた。
…これで正真正銘、彼女は丸裸になってしまったわけだ。
喉の奥から迫り上がってくる羞恥を押し止め、目元に薄らと涙を滲ませて青江を見つめると、彼は胡座をかいたまま『おいで』と手招きする。
それに従って胡座の上から跨ぐように座ると、背中に彼の手が回り、しっかりと支えられた。
「じゃあ、はじめるよ。」
その途端に、首筋へ彼の顔が寄せられた。
熱を持った舌がぬるりと肌の上を這って、その後を追いかけるように、ちゅ、と吸われる。
「んん………!」
堪らず声を上げると、彼は緩く笑い、からかうように問いかけてきた。
「もしかして、感じちゃったかな?」
「………。」
「それとも…恥ずかしい方?」
ギリギリまで耳元に唇が寄せられ、艶のある彼の声が直に鼓膜を揺らした。
そればかりか、ふぅ…と、耳に息を吹きかけられ、そっと耳朶を食まれる。
今にも全身の血が煮えくり返りそうな心地なのに、彼は、彼女のそんな反応すら楽しんでいるかのように笑みを崩さぬままだ。
「や、やめて…くだ、さ……、」
やっとのことで絞り出した声も、口の中にいきなり進入してきた指によって無残に掻き消された。
彼の指が歯と歯茎の間や上顎を丁寧に擦り、必死の訴えは全て甘えるような音に変わっていく。
「んぁ………、」
口の中を好き放題に弄くり回されてこんな声を上げるのはおかしいのだろうけど、抗うことはもとより頭に無い。
唾液が口の端から滴り落ちるのも構わず、彼の指がもう一本口内に入り込んだ。
そうかと思えば、二本の指は唐突に引き抜かれる。
「君って、小さいよね……。」
「?」
何の事か分からずに首を傾げると、彼は苦笑しながら、垂れたままだった唾液を指先で拭う。
「あの…『小さい』って?」
「ああ、口のことだよ。小さいのが悪いとは言わないけど、何かを舐めたり咥えたりする時に不便じゃないかと思ってね。」
上のお口は、指が二本しか入らないみたいだけど…。
意味ありげにそう言って、青江は腰の辺りに再度しっかりと手を回し。
先程口の中に指を入れてきた時と同じように、いきなり秘所へと指を沈み込ませた。
「ひゃあっ……!?」
既に蜜に濡れていたそこは難なく指を呑み込むが、指が抜き差しされる度に卑猥な水音が響き、動きに従ってまた新たな蜜が滴り落ち、青江の服を濡らす。
羞恥と快感に体を震わせていると、追い詰めるような彼の声が耳に届く。
「そうだ、下のお口は何本咥えられるのか試してみようか?……障子の向こうにいる彼等も、君に興味があるみたいだしね。」
『彼等』という単語に、はっとして障子の方を眺めると、闇の中に散っていったはずの異形の者達の影がまたうっすらと見えた。
そればかりか、いつもはガヤガヤと五月蝿いはずなのに、今に限って異様なまでに静かにそこに佇んでいるのだ。
考えたくもないが、まさか、あれらは青江と自分の行為をじっと眺めているのだろうか…?
そうだと思うと、怖いような、恥ずかしいような。
何とも曖昧な意識が急に頭をもたげてくる。
「や…だ、やだ………!!」
自分でも何が嫌なのかは分からないままにそう繰り返し、ほぼ反射的に青江にしがみつくと、彼はいやに落ち着いた様子でこちらを見下ろす。
「大丈夫だよ、ただ…どうしても怖いなら、目を瞑っていた方がいいかもしれない。」
額に触れるだけの口付けを落とすと、中に入れられたままだった指とは別に、もう一本指が入り込んで内装を擦った。
いつまでたっても狭いそこを奥の方まで押し広げようとしているかのように。
入り口付近からゆっくりと解されていく感覚が脳内を支配する。
その際中にも、障子を隔てた向こう側にいるそれらは微動だにせず、廊下に居座っているようだった。
「…随分熱心にこっちを見てるよね。君って変な物にばかり好かれるみたいだけど、どんな体質をしてるのかな?」
もう浅い仲ってわけでもないし、何か心当たりがあったら教えてほしいんだけど。
その間にも、彼の手が止まることは無い。
漏れ出した蜜が入り口をはしたなく濡らして、他の物を欲しがり出す頃合に、三本目の指が沈められた。
空気と一緒に押し込まれたそれは、耳を塞いでしまいたくなるほどにひどく淫猥な音を立てて出入りを繰り返し、自分も触れた事の無いような箇所を無遠慮に蹂躙し尽くしていく。
それに従い、彼女は力無く青江にしがみつきながら幾度目か知れぬ絶頂を迎えた。
「あぁっ………!?」
か細い悲鳴が上がってすぐ、彼の指が秘所から引き抜かれる。
脱力しきって頭が回らない状態の彼女の眼前には、すかさず蜜に濡れて少々ふやけた彼の指が突き出された。
「…とりあえず三本は入ったけど、四本目はどうしたい?」
「やっ……も、むり………。」
「そうだよね…じゃあ、こっちにしようか。」
いつも以上に艶のある声で囁かれた直後、嫌な予感がして反射的に腰を浮かせたが、彼は愛おしむかのような笑みを浮かべたままそれを押さえつける。
途端に、泥濘んだ秘所へと、熱くそそり立った物が擦りつけられた。
「ま、待って…まだ……、」
慌てて懇願するも、無駄だった。
弄くり回され、蜜を流し続けていたそこは自分の意思とは関係無しに擦りつけられた物の先端を呑み込み、奥へと誘う。
「ほら、分かる?小さいここで咥えて……今はこの辺まで入っちゃってるんだよ?」
煽るようにそう言って、青江は彼女の下腹部に手を伸ばし、ゆっくりと撫でた。
抱き合うような体勢になった事で更に奥の方に彼の物が押し付けられ、甘い快感に目が眩みそうだ。
障子の方からはガリガリ…と、何かを必死に引っ掻く音が聞こえてくるが、彼はそれをものともせずに微笑したままである。
「…残念だけど、君達には渡せないかな。」
小さく呟いて、彼は強く腰を打ちつけた。
あまりに急な事に頭が付いていかず、わけも分からず喘いで涙を流す。
「あぁあっ…ぁ……、だめ、そんな……!?」
「何が『だめ』?ここまで来てあんまり焦らされると、さすがに辛いんだけどな……。」
切なげな声音とは反対に、ガツガツと奥を何度も突かれているのに、馬鹿になりそうなくらいに気持ちが良い。
脳髄までドロドロにされそうになりながら、彼女は涙ながらに青江に縋り付く。
「ひぁ…や、だ……すごい…なんか、きちゃ、う…!?」
「僕も、そろそろ…っ、」
仕上げだ、と言わんばかりに突き上げられ、彼女は体を仰け反らせて絶頂を迎えた。
それから少し遅れて、奥の方に熱くて白い欲が吐き出されるのが分かる。
荒い呼吸を繰り返し、青江の胸へ倒れ込む頃には、もう引っかくような音は聞こえなかったし、いくら目を凝らしても、薄い障子紙の向こうに奇妙な人影を見つける事は出来なかった。
自分の耳が拾うのは、乱れた互いの呼吸だけ。
目視できるのは、障子から差し込むほの明るい夜明けの光に照らされる青江。
先程まではひどく不安だったのに、今はそれがない。
ゆっくりとした呼吸を繰り返し、情事の後に襲ってくるあの気怠さから、彼女はゆっくり目蓋を閉じる。
完全に意識が無くなる前に耳に届いたのは『好きだよ』と、囁く青江の声だった。
end
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