▼ *舞う鶴、忍び寄る鶯/ver.鶴丸
*エロ注意
怠い。
まだ真昼だというのに、これだけ眠いのは辛すぎる。
回らない頭はそのままに、彼女は仕事机から離れ、襖をちょっとだけ開いて外の様子を伺った。
…特に人影は見当たらないし、大倶利伽羅お手製の防犯センサーにも異常はないようだ。
ひとまずそれに安心し、彼女はいそいそと寝間着に着替え、枕を手にする。
最初に断っておくが、彼女はこの本丸の主である。
しかし、そんな彼女がビクビクしながら昼寝の支度をしているのは、ちゃんとそれ相応の理由があっての事。
…厳密に言えば、最近の鶯丸と鶴丸の様子があからさまにおかしいせいであった。
二人供、初めの方は何ともなかったのに…ここ数日の間に何故か妙に色めき立ち始めたと言うか。
先日、薬研がそわそわとして落ち着かない二人を一瞥し『きっと大将でやましい事でも考えてんだろ、』などと、とんでもない事を言ってみせるから、たまたま傍を通りかかったらしい加州と安定がすごい剣幕で部屋に飛び込んできたのが記憶に新しい。
…大体『やましい事』だなんて。
その場でそれを認めて主戦力の某刀剣男士二名を沖田組に闇討ちされるわけにもいかず、そんなわけないと否定しておいたが、心当たりが無いわけではなかった。
鶴丸は、とにかくよく騒ぐ。
いや…“よく騒ぐ”というよりかは、よく夜這いに来る、もしくは、隙をついて部屋に押し入ってきてはいかがわしい行為をしようとしてくると言った方が正しいのか。
この前の夜『もう限界だ』とか何とか言いながら奴は部屋に押し入り、前座もそこそこに、艶事に至らんとしてきたので、すんでのところで長谷部を呼んで盛った鶴を摘まみ出してもらったばかりだった。
色々と危ない鶴丸とは対照的に、鶯丸は大人しい。
鶯丸は、茶を片手にこちらを眺めて頬を赤くしているだけだから、まだ可愛気がある。
どちらかといえばクールな印象の彼がそんな表情を見せるのには驚かされたが、鶴丸ほどあからさまではないから許せるが。
…しかし、うっすら漂うムッツリ感は否めない。
とりあえず、各々のやり方でどこを目指しているのか分からないような行動を見せる両者は、美しくもあり、なおかつ下心が丸出しである。
…大体、何故自分が彼等の標的にされて毎度毎度寝込みを襲われなければならないのだろうか?
男だらけの本丸に、女の私がポツンといるのがまずもっていけないとか、呼び出したのは自分なんだから最後まで面倒を見ろ、等と指摘されれば、もう何も言えなくなるわけだが。
そんな変な責任感のおかげで、彼女は比較的安全確認がしやすい昼間に寝溜めして、鶴と鶯の夜の襲撃に備える、という生活を送っているのだ。
過去数回は油断をしたために、夜はひどく泣かされた挙げ句、翌日の朝素っ裸の鶴丸が横で寝ていたり、同じく素っ裸の鶯丸に抱き枕代わりにされたりと散々な朝チュンを経験しているために、ついつい対策に念を入れすぎてしまうのは致し方ない事と言えるだろう。
つまり、最近は慢性的な寝不足である。
ばさばさ、と乱雑に布団を出してから、彼女は用心深く再度外の物音に耳を済ませ、つっかえ棒を全ての出入り口に設置し。
…念には念を入れて、燭台切が用意してくれていた南京錠をかけてしまってから、ようやっと息を着いた。
これなら、あの盛りのついた鳥コンビも中には入れまい。
これでようやく一安心、とばかりに気を抜いて、彼女は夕餉の時刻の一時間前に目覚まし時計をセットする。
これから眠れるのは、四時間弱くらいだろうか。
それでも、寝られないよりかはよっぽどマシだ。
そんな事を思い、止まらないあくびを何とか噛み殺す。
完全に灯りを落として、やわらかな床の上に身を横たえた瞬間に、彼女はうとうとする間もなくすぐに寝入ってしまった。
……目に見えない危険がすぐそこに迫っている、とも気が付かずに。
***
寝付いてから半刻も経たぬうち、チクリ、チクリと首筋から胸元にかけて微かな痛みが走り、彼女は重い目蓋を上げる。
くすぐったいような、ひりひりするような。
眠いと訴える頭をもたげてそれが何なのかを確かめて、唖然とした。
「つる、まる…?」
「何だ、起きたのか。」
これだけ暗い中でも、自分の体の上に本物の鶴のように覆い被さる白い彼の姿は、薄ぼんやりと見える。
蜂蜜色の瞳を潤ませ、ねとり、と彼が舌を這わせた先には、赤い花がいくつも咲いていた。
よくよく見てみると、先程痛みを感じた箇所には、全て花のような痕があり、彼が何度も吸いついて付けた物と思われる。
「なんで、ここにいるの…?」
ようやく動き始めた頭がその問いを反射的に外に出したが、時既に遅し。
はぁ、と溜息を漏らし、鶴丸は体を起こしてこちらを見下ろす。
「『何で』って…俺と鶯丸は最初から君の部屋にいたんだが。」
気が付かなかったのか?
そう教えられて、絶望する。
鶴丸に促されるままに目線だけを動かすと、枕元にきちんと正座したままこちらを見下ろす鶯丸と目が合った。
この話しぶりからして、彼等は本当に自分が眠る前から、予めこの部屋に身を潜めていたに違いない。
それに気が付きもせずに、彼女は自分の手で部屋を完全に外部から隔絶した場所にしてしまったばかりか、助けを求めても誰も部屋に入れないような状況を作り出してしまったのだ。
自分の犯した過ちを後悔する反面、彼女の頭の中は羞恥に染まり始める。
今の状況を冷静になって見直してみると、身に纏っていたはずの寝間着は乱されていて。
彼の趣味なのか、全て脱がされているような状態ではなく、局所局所がぎりぎり見えるか見えないか、という半端な有様であるから、余計に恥ずかしい気がする。
唯一幸いと言えそうなのは、手が縛られていない事くらいか。
どっちにしろ、雰囲気に飲まれて陥落してしまうのは時間の問題だった。
今日もまた、自分の知らない、慣れない行為を彼から強要されるんじゃないかと震える。
それとほぼ同時に、生温かく粘り気のある物が秘所から伝い落ちる気持ち悪いような感覚に肌が粟立った。
それが何であるかは、すぐに想像がつく。
認めたくない…けれど、認めざるを得ない。
元は潔白で恥ずべき所なんてなかった自分の体をこんな淫乱な物に作り替えたのは他でもないこの二人だが、鶴丸はそれをまるでこちらが悪いかのように指摘してくるのだ。
どうか、気が付かれませんように…と身を捩ってみるが、それも無駄な努力に終わる。
鶴丸はそれを目ざとく見つけたかと思えば、秘所を隠していた寝間着の薄い布の上からそこを軽く撫で…その拍子に勢い良く流れ出した蜜が付いて濡れるのを面白そうに眺めた。
「こんなに濡らして…、ま、最近は御無沙汰だったからな。」
欲求不満でこうなる気持ちは分からなくもないんだが。
そう言って、彼は既に潤んでいる秘所に指を這わせ、ぐぷ、と深めに指を沈める。
「ひぁ……!?」
いきなり中へ進入してきた指を拒むことなく、自分のそこは更にはしたなく蜜を溢れさせ、喜んでいるかのように奥底が蠢いた。
それに従って、彼が二本、三本、と指を増やしても、疼きは収まるどころか強くなっていくばかりだ。
何ともしようのない。
持て余すくらいの快感にどうしていいか分からず涙を零せば、追い打ちをかけるように剥き出しの雛先を空いた指で攻め立てられる。
堪らず、彼女は甘い悲鳴を漏らした。
「あぁっ……!!」
早過ぎる絶頂を迎えた直後、鶴丸は涼しい顔をして自らを緩みきった秘所へと宛がう準備を始めるが。
少々の間の後、彼は何か悪戯を思いついた子供のように、ぱっと顔を輝かせた。
これでは、どうしたっていい方向には転ばなさそうだ。
その直後、鶴丸はぐったりとした彼女を抱き上げ、胡座をかいたその上に跨ぐようにして座らせた。
いわゆる、対面座というやつだろうか。
彼とするときはいつも向こうから組み敷かれるのが常で、こんなのは初めてである。
「これから、なに、するの…?」
「何って…ほら、いつもは俺が上だろ?だから、たまには君が上ってのも悪くないと思ってな。」
途端に、体中から血の気が引いていくような心地がした。
無意識のうちに、体が強張る。
藁にも縋る思いで鶯丸に助けを求めようとするが、肝心の彼は、顔を真っ赤にして俯いていた。
現状は絶望的。
どうしたらいいか分からなくて、再び泣きそうになっていると、まだ温かな蜜を溢れさせる自分の秘所に、再度指が差し入れられる。
拡げるように。
ゆっくりと内装を弄られ、思わず鶴丸にしがみつくと、拗ねたような声が耳元をくすぐった。
「今君を抱いてるのは俺だろ?…君がその気なら、もっと色々やったっていいんだが。」
答える間もなく、泥濘みきった秘所に、火傷しそうなほど熱く大きな何かが宛がわれる。
「あぅ…ふぁあ…、」
じわじわとした初めての気持ち良さが広がり、自分の口からは自然とだらしのない淫らな喘ぎ声が漏れ出した。
ただ、いつもと違うのは、すぐに奥の方へ彼の物が押し込まれない事。
先の方をほんの少し入れただけで、彼は動作を止めてしまう。
これ以上、何をしようと言うのか。
鶯丸とは違って大分強引な抱き方をする鶴丸に毎度のように泣かされてはいるが、それをどこか気持ちよく思ってしまう自分もいて…非常に複雑な心地がする。
惚れている、と言うべきか。
手懐けられている、とした方が適切なのか。
涙目で彼を睨み付けると、悪びれるふうもなく『気持ちよくなりたいなら自分から腰を落として全部咥え込んでくれ、』と非情な事を言う。
「やだ、無理……!!」
嫌だ、怖い、と首を振ると、彼は意地悪く笑って腰の辺りを撫でる。
「『無理』じゃないだろ?いつもはここで上手く咥えてるんだ。それに…あんまり焦らされると俺も辛いんだが、」
ぎち、と自分の中の物が質量を増しているのが分かる
こんなに大きい物を自力で奥まで入れろ、だなんて。
内側から裂けちゃったらどうしよう…。
上手く出来なくて、鶴丸に怒られたらどうしよう…。
彼女は元々子供っぽいような気質で、あんまりにも意地悪をされすぎたり、我慢させられたりすると泣きたくなってしまう。
…今回も例に漏れる事なく。
彼女はぽろぽろと大粒の涙を溢れさせ、泣き出した。
「う…ふぇ……、ごめんなさい…!!鶴丸のこと好きだけど……でも、怖くて出来ないの…。」
上手く考えがまとまらず、切れ切れになってしまうが、仕方が無い。
子供のように泣きじゃくりながら何度も言葉を繋げていると、鶴丸が困ったような顔をして涙を拭い、背中を撫でてくる。
「…泣かないでくれ、主。俺が悪かった。やっぱり、慣れない事はするもんじゃないな。」
それからすぐ、入り口を塞いでいた物が抜かれ、元のようにそっと布団の上に寝かされる。
先程より幾分か優しい手つきに安心して息を吐き出すと、鶴丸の手が伸びてきて、涙を拭ってくれた。
その動作に安堵して、彼女は強請るように彼に擦り寄る。
「すき…だから、頂戴?」
甘くそう告げれば、彼は何度か頷き、もう蕩けきった下の口に硬く大きな物を宛がう。
ぐちゅ、という生々しい音と供に彼の物が入り込んでも、痛くはなかった。
愛撫もそこそこに、すぐさま律動が始まった。
ぐちゃぐちゃ、と、普通なら耳を塞いでしまいたくなるような水音も、甘ったるい自分の声も、この時ばかりは気にならなくなる。
何も分からなくなるくらい気持ちのいいこれは、本来ならば人間同士で済ますべき穢れた行為なのだろう。
しかし、今自分を抱いているこの男は人ならざる者。それが余計に『いけない事をしている』という背徳感を掻き立て、切ないくらいの快感が押し寄せてくるのだ。
そんな事を考えてしまう自分が嫌で、覆い被さってくる鶴丸を抱きしめた。
元々ぎりぎりまで我慢させられていて辛かったせいもあり、絶頂が近い。
「あ、やぁっ……、も、ダメ…、ダメ…なの……、イっちゃう…!!」
隠すことなく正直に伝えると、彼はそのまま激しく腰を打ちつけて、未だいきり立つ自身を胎内に埋めたまま共に絶頂を迎えた。
どくどく、と奥に出された真っ白な欲が秘所から流れ出るのを見る度、彼を慕う気持ちが強くなる。
べっとりと奥を汚されるこの感覚ですら、毒のように自分の体を蝕んで何か尊い物のように錯覚させてしまうのだ。
「主……好きだ。」
鶴丸の純粋な愛が他の誰でもない、自分に向けられているのだと思うと、嬉しすぎて、禁忌を犯しているのだという罪の意識も軽くなってしまう。
もしも…あなたが鶯丸のように『主が一番大事だ』って。
『愛している』って。
そう言ってくれたら、私は一体、どうなってしまうだろう………。
どこまでも罪深い欲求を心の内に秘めたまま、彼女は疲れ切った笑みを浮かべる。
「無理をさせて悪かったな、今日はもう寝てくれ。」
薄れていく意識の中で聞こえたのは、精一杯自分を気遣ってくれる言葉で。
温かさと優しさに包まれながら、彼女はまた眠りへと落ちていく。
鶯丸には悪いが、きっと私は鶴丸が好きなんだろう。
二人の情事を終始見ていた鶯は、もつれ合う鶴と主の姿を直視出来なかったようだけど。
end
prev / next