＊エロ注意



眠い。

まだ真昼だというのに、これだけ眠いのはどうにも辛い。


回らない頭の中でそんな事を思いながら彼女は仕事机から離れ、襖をちょっとだけ開いて外の様子を伺う。

…特に人影は見当たらないし、大倶利伽羅お手製の防犯センサーにも異常はないようだ。


ひとまずそれに安心し、彼女はいそいそと寝間着に着替え、枕を手にした。

最初に断っておくが、彼女はこの本丸の主である。
しかし、そんな彼女がビクビクしながら昼寝の支度をしているのは、ちゃんとそれ相応の理由があっての事。


…厳密に言えば、最近の鶯丸と鶴丸の様子があからさまにおかしいせいであった。
二人供、初めの方は何ともなかったのに…ここ数日の間に何故か妙に色めき立ち始めたと言うか。


先日、小狐丸がそわそわとして落ち着かない二人を一瞥し『きっと発情期なのでございましょう』などととんでもない事をぼやいていた。
その拍子に、飲んでいた茶を吹き出したのが記憶に新しい。

…大体『発情期』だなんて。
片方はまだしも、もう片方は少なくとも良識のある刀である。

その場で認めて某刀剣男士一名の顔に泥を塗りたくるわけにもいかず、そんなわけないと否定しておいたが、心当たりが無いわけではなかった。



鶯丸は、茶を片手にこちらを眺めて頬を赤くしているだけだから、まだ可愛い。
どちらかといえばクールな印象の彼がそんな表情を見せるのには驚かされたが、鶴丸ほどあからさまではないから許す。

…が、しかし、ムッツリ感は否めない。


こんなに大人しい鶯丸とは対照的に、鶴丸は、とにかくよく騒ぐ。

いや…“よく騒ぐ”というか。
よく夜這いに来る、もしくは、隙をついて部屋に押し入ってきてはいかがわしい行為をしようとしてくると言った方が正しいのか。

この前の夜『もう限界だ』とか何とか言いながら奴は部屋に押し入り、前座もそこそこに危うく艶事に至りそうになったので、長谷部を呼んで盛った鶴を摘まみ出してもらったばかりだった。


とりあえず、各々のやり方でどこを目指しているのか分からないような行動を見せる両者は、美しくもあり、なおかつ下心が丸出しである。


…大体、何故自分が彼等の標的にされて毎度毎度寝込みを襲われなければならないのだろうか？

男だらけの本丸に、女の私がポツンといるのがまずもっていけないとか、呼び出したのは自分なんだから最後まで面倒を見ろ、等と指摘されれば、もう何も言えなくなるわけだが。


そんな変な責任感のおかげで、彼女は比較的安全確認がしやすい昼間に寝溜めして、鶯と鶴の夜の襲撃に備える、という生活を送っているのだ。

過去数回は油断をしたために、夜はひどく泣かされた挙げ句、翌日の朝素っ裸の鶴丸が横で寝ていたり、同じく素っ裸の鶯丸に抱き枕代わりにされたりと散々な朝チュンを経験しているために、ついつい対策に念を入れすぎてしまうのは致し方ない事と言えるだろう。

つまり、最近は慢性的な寝不足である。


ばさばさ、と乱雑に布団を出してから、彼女は用心深く再度外の物音に耳を済ませ、つっかえ棒を全ての出入り口に設置し。
…念には念を入れて、燭台切が用意してくれていた南京錠をかけてしまってから、ようやっと息を着いた。


これなら、あの盛りのついた鳥コンビも中には入れまい。

これでようやく一安心、とばかりに気を抜いて、彼女は夕餉の時刻の一時間前に目覚まし時計をセットする。


これから眠れるのは、四時間弱くらいだろうか。
それでも、寝られないよりかはよっぽどマシだ。

そんな事を思い、止まらないあくびを何とか噛み殺す。
眠るのに支障がないくらいに灯りを落として、やわらかな床の上に身を横たえた瞬間に、彼女はうとうとする間もなくすぐに寝入ってしまった。


……目に見えない危険がすぐそこに迫っている、とも気が付かずに。



＊＊＊



寝付いてから一刻も経たぬうち、肌の上を何かが這い回るような妙な感触を覚えて彼女は重い目蓋を上げた。

ぴちゃ、ぴちゃ…と粘着質な音を立て、それは腹の辺りから太股までをねっとり、ゆっくりと移動する。


くすぐったいような、気持ち悪いような。

怠いと訴える頭をもたげてそれの正体が何かを目の当たりにした途端、飛び上がりそうなくらいにびっくりした。


自分の体を這いずり回る…もとい、いやらしく舐め回していたのは、頬を少しだけ赤くした鶯丸だったのだ。


「うぐいす、まる…？」


「ああ、起こしてしまったか。」


すまない、と場違いに謝る彼を余所に、彼女の隣の暗がりには、白い鶴がその一連の様子を頬杖をついて眺めていた。


「なんで、何で、二人がここにいるの…？」


ようやく動き始めた頭がその問いを反射的に外に出したが、時既に遅し。

また熱っぽく太股を舐め始める鶯丸の代わりに、鶴丸がニヤニヤしながら答える。


「『何で』って…俺達は最初から君の部屋にいたんだが。」


気が付かなかったのか？

そう教えられて、絶望した。


この話しぶりからして、彼等は本当に自分が眠る前から、予めこの部屋に身を潜めていたに違いない。

それに気が付きもせずに、彼女は自分の手で部屋を完全に外部から隔絶した場所にしてしまったばかりか、助けを求めても誰も部屋に駆けつけられないような状況を作り出してしまったのだ。


自分の犯した過ちを後悔する反面、彼女の頭の中は羞恥に塗りたくられ始める。

今の状況を冷静になって見直してみると、身に纏っていたはずの寝間着は好き放題に乱されていて。
恥ずかしながら、剥かれた、というような言葉がぴったりの有様である。


おまけに、足は鶯丸にがっしりと押さえられていて閉じる事が出来ず、たまに彼と目が合うのが恥ずかしすぎて泣きそうになった。

唯一幸いと言えそうなのは、手が縛られていない事くらいか。


どっちにしろ、雰囲気に飲まれて陥落してしまうのは時間の問題だった。


どうしよう、どうしよう…。

おろおろしている隙に、チュッという軽いリップ音が響き、内股にちくりとした痛みが走る。
びっくりしてそちらを見ると、そこには円形に近い赤い模様が浮かび上がっていた。


…と、鶯丸の手がいきなり下着を掴んで引きずり下ろす。

突然露わになった自分の秘所を直視できるわけもなく反射的に顔を逸らすが、彼はそんな風に恥ずかしがる彼女とは対照的に、興味深そうに、つう、と指を這わせた。


「…やぁっ!?」


いきなり中へ進入してきた指を拒むことなく、自分のそこはトロトロとはしたなく蜜を溢れさせる。

この二人に、そうなるように躾けられた、と言った方が正しいが、体の奥の方が熱くなるようなこの切ない感覚はどうにも苦手だ。


「そこ、だめ…！」


最後の望みをかけて鶯丸に懇願するが、彼は何を思ったのか、その端正な顔を秘所に近付ける。


まさか………！

どうにも嫌な予感がして彼の頭を掴んで止めようとしたが、それより先に、指とはまた違った感触の生温かい物が秘所から滲む蜜を掬い取った。


「ちょ、ダメっ、ダメだってば…！」


きっぱり拒否したのに、それは聞き入れられなかったようだ。

困って鶴丸に助けを求めるが、彼は首を振る。


「俺は君を抱きたかったんだが、さっき鶯丸とやった『じゃんけん』とかいうのに負けちまってな…今日は手を出さずに見てる他無いって事になっちまったんだ。」


それを聞いて、ますます焦りはひどくなる。


「汚い、から…、舐めないで……!!」


涙ながらにそう訴えかけたものの、鶯丸は特に悪びれるふうもなく、溢れる蜜を器用に舐め取り、ごくんと飲み干す。


「汚くなどないさ、主の茶はとても美味い。それに…ここは何度交わっても狭いままだろう？今のうちに解していた方がいい、」


優しいのか、意地悪なのか。

間髪を入れず、やわらかくじっとりとした彼の舌が秘所の奥の方をそっと擦っては、垂れてくる蜜を嚥下してを繰り返す。


「あぅ…ふぁあ…、」


じわじわとした初めての気持ち良さが広がり、自分の口からは自然とだらしのない淫らな喘ぎ声が漏れ出した。
早くも達してしまいそうなのに、また別の快感が次々にやってきておかしくなりそうだ。

剥き出しになっていた雛先も甘やかすように攻められると、たまらず声を上げて達してしまった。


こうされるのが好きかと問われて頷くと、可愛いな、と鶯丸の手が頭を撫でる。

鶴丸とは違って大分優しい抱き方をしてくれる鶯丸に心惹かれながらも、蕩けそうな快感に犯された頭では、まともに物も考えられない。


彼女は元々子供っぽいような気質で、あんまり我慢させられると泣いてしまうから、こんなふうに達したい時に達しても叱ったりしない鶯丸の優しさがとてもありがたかった。


「すき、好き…鶯丸、」


次の物を強請るように。
甘えるようにそう言えば、彼はいつものようにすぐ欲しい物をくれる。

もう蕩けきった下の口に、硬く大きな物が宛がわれ、ぐちゅ、という生々しい音と供に彼の物が入り込む。


「主、痛くはないか？」


熱くて、恥ずかしくて。
それでも返事の代わりに、小さく頷けば、すぐさま律動が始まった。

ぐちゃぐちゃ、と、普通なら耳を塞いでしまいたくなるような水音も、甘ったるい自分の声も、この時ばかりは気にならなくなる。


何も分からなくなるくらい気持ちのいいこれは、本来ならば人間同士で済ますべき穢れた行為なのだろう。

しかし、今自分を抱いているこの男は人ならざる者。それが余計に『いけない事をしている』という背徳感を掻き立て、切ないくらいの快感が押し寄せてくるのだ。


そんな事を考えてしまう自分が嫌で、覆い被さってくる鶯丸を抱きしめて背中に爪を立てた。

もう互いに絶頂も近く、怖いくらいの快感が辛い。
見れば、鶯丸の顔も辛そうに歪んでいた。

少なからず、彼と気持いい事を共有している気がして、少しは気が休まる。


「あ、やぁっ……、も、ダメ…、ダメ…なの……、イっちゃう…!!」


隠すことなく正直に伝えると、彼はひときわ激しく腰を打ちつけて彼女を完全に達させてしまってから、未だいきり立つ自身を胎内から引きずり出し、すんでのところで外に出した。


方々に飛び散る真っ白な欲を見る度、彼の優しさが身に染みるのだが、同時に寂しくもなる。

一夜孕みというのが本当にあるかは分からないが、中を極力汚さないでいてくれるのは、彼なりの気遣いなのであろう。


「愛している、主……。」


潤んだ瞳を揺らしながら、鶯丸はぐったりとした彼女の手をそっと握ってくれた。


もしも…あなたが鶴丸のように『自分をだけを好きになってほしい』って。
『自分だけを見ていてほしい』って。

そう言って連れ去ってくれたら、私は喜んであなたの子を孕むのに………。


どこまでも罪深い欲求を心の内に秘めたまま、彼女は疲れ切った笑みを浮かべる。


「無理をさせて悪かったな、今日はもう眠るといい。」


薄れていく意識の中で聞こえたのは、やっぱり優しすぎる言葉で。

温かさと優しさに包まれながら、彼女はまた眠りへと落ちていく。
?丸には悪いが、きっと私は鶯丸が好きなんだろう。



二人の情事を終始見ていた鶴は『妬けるね…』と、呟いていたけれど。

彼女はそれを知らない。


end

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