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▼ あなたと私/アラジン

・苦悩の話。
※名前未入力の場合、表記は全て「ルネ」で統一。


〜マグノシュタット〜


「(どうしたもんかなぁ…。)」


今まで読むのを楽しみにしていた魔導書を膝の上で広げ、さらりと目を通してみるものの…内容が全くと言っていいほど頭の中に入ってこない。

いつもはそんな事ないのに。ほんと、どうしちゃったのかしら?


ちょっとわざとらしく首を傾げて考えてみたところで、原因は既に明らかである。

…彼女の集中力をごっそりと削ぎ落としている物の正体は、背後から痛いくらいに感じる視線のせいなのだ。


こちらに向かって、ひたすらに期待と熱のこもった視線を送ってくるのは、つい最近一緒にコドル1に進級した天才魔導師『アラジン』。

可愛らしい容姿とは裏腹に、大人顔負けの大魔術を使う少年で、先生方からは『ヤムライハ以来の天才児だ』とか『魔術の申し子』と持て囃され、多大な期待をかけられている生徒の一人である。

そんな才気溢れる彼が、何故とりわけ目立ってもいない自分にくっついてくるようになったのかは分からない。

実際、彼女がアラジンと初めて会ったのは、たった二週間前だった。
…もっとも、彼は既にこちらのことを熟知していたようであったが。


とりあえず、合って早々に彼はこちらに色とりどりの花を束ねて作られた小さなブーケを差し出して、『僕とお付き合いして下さい!』と頭をさげてきたのだ。

こんなに小さな子が、真剣に…。

可愛いな、と思う中にどこか吹き出してしまいそうな滑稽さが付きまとっていたが、まさかこれで本当に恋人同士にでもなるわけじゃあるまいし。

どうせ、アラジンの今の気持ちはおままごとのような一時的な感情であって、すぐに忘れてしまうような物だろうとしか思えなくて、無責任にも『いいよ』と答えて花束を受け取ってしまったのだ。


それから、アラジンは頻繁にルネの部屋に出入りするようになった。

『僕、ルネお姉さんが大好きだよ!』

花が咲いたような可愛らしい笑みを浮かべながら、何度も“好き”を繰り返してくれる彼の気持ちがうれしくて、こちらもつい“好き”を多用してしまった事を後悔するのは、それからすぐの事になる。


一緒にいて間もない頃は、互いに抱きしめあったり、手をつないだりするだけの些細なスキンシップだけで満足そうにしていた彼は、次第に不満気な顔をするようになった。

つまり、彼は『もっと恋人らしい行為』…つまりは、キスまで求めるようになってきたのだ。


「キスしておくれよ、お姉さん。」


屈託のない純真無垢な笑みと?のない真っ直ぐな言葉の攻撃力は極端に強く、屈服せざるをえない。

ちょっと抵抗はあったが、その時は仕方ない、という事にして、アラジンの額や、やわらかな頬にキスしたのだが…それでも足らないのか、彼が『ちゃんと口にしてくれなきゃ嫌だ』と駄々を捏ねるもので。


やはりそれにも屈服して、降参の印の白旗を上げる代わりに、戸惑いつつも、とうとう彼女はアラジンの唇に控えめな口吻を施した。


それ以来、少年はいつもそれを求め、期待に満ちた笑顔を浮かべて瞳を閉じ、こちらに顔を向ける。

それをはっきり拒否する事も出来ず、迷いを飲み下せないうちにも流されるように彼に従ってしまう私は何なのだろう?


自分とアラジンの関係は世に言う『恋人』というヤツなのか、そうではないのか。

何とも微妙で判断に苦しむ所であるが、どうとも呼べない今の関係を受け入れてしまいそうな自分もいて、時々言われようもないくらいの恐ろしさに身震いする事がある。


彼と私とでは、ちょうど姉と弟くらいの年齢なのに、こんな事をして…。

それは勿論なのだが、ルネの悩み事はどんどん膨らんでいく。


もしこのまま、アラジンと深い仲になってしまったら…?
先生や友達にこの事が知られたら…?


分岐した先のどの未来をも手に取るように分かってしまうような気がして、頭がどうにかなってしまいそうだ。

それでも、ここまで来てしまったからには後戻りは出来ない。
事実、彼が私を好いてくれているように、私も彼を好いているのだから。

だから余計気になるのは、今の自分達の関係が何に相当するのか、という事。


果たして…。

自分達の間にあるのは純粋な『愛』なのか?
それとも、恋人という響きに憧れているだけで、それに近しいような行動を取ってい喜んでいるだけの『おままごと』なのか?


「…………。」


深みに入って抜けられなくなりそうな所で考えるのを放棄し、後ろに行儀よく座っていたアラジンを呼び寄せて、少し強めに抱きしめる。


「ね、アラジン…、好きだよ?」


「ありがとう。僕もルネお姉さんが大好きさ!」


僕達、このままずーっと一緒にいられたらいいのにね…!

触れたら消えてしまいそうな淡い願望を口にして、彼はいつものように目を閉じる。


罪悪感に苛まれながらも、かろうじてアラジンの薄い唇に自分の唇を重ね合わせ、涙が出そうになった。

これじゃ埒が明かないな…君をもっと好きになっちゃって。


心の中でアラジンへの『好き』を何度も塗り重ね、無理やりに気持ちを高揚させながらルネも静かに目を閉じた。


end

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