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▼ 脱力系男子/紅明

・紅明さんが『○○○』な話。
・現パロ注意報。
・一応夢主様と紅明さんは一応お付き合いしてます。(同居中?)
※名前未入力の場合、表記は全て『瑠音』で統一。


〜アパート内〜


「今日の天気は曇りのち雪。夕方近くになるにつれて、次第に冷え込むでしょう。」


お天気アナウンサーのお姉さんが言うその予報が今日当たるかどうかを考えながら、瑠音はテレビを消して時計を見た。

時刻は既に昼間の十二時を回っており、そろそろ昼時だという事を意識すると、何だかお腹が空いてきてしまう。


それから、朝から一寸の隙間もなしに固く閉ざされている奥の部屋のドアを見つめる。

そのドアの中からは人の気配はおろか、中で何か作業をするような音も、寝息さえも聞こえてこない。


しかし、彼女は知っている。
瑠音が今住んでいるアパートの奥の部屋に陣取り、ほぼニートのような状態で不思議な生活を自分と共に営んでいる男の存在を。


「まだ起きてこない…。」


彼女は溜め息をつきながら、重い足取りでゆっくりとドア付近に近寄り、そっとノックする。

そして囁くように『起きてますか?』と、部屋の主に声をかけるものの、返事はない。


「開けますよー…?」


ドアノブに手をかけ、怖々部屋の中を覗いてみて―――絶句した。

昨日瑠音が散々時間をかけて綺麗に片付けたその部屋は、CDやら分厚い某少年誌やらが床の上に散乱しており、極めつけには一応彼女の今の同居人兼恋人…紅明がベッドからずり落ちた状態で爆睡していたのだ。


スースーと呑気に寝息をたてながら腹を出して快眠を貪る青年の姿を見て、彼女はいつものように怒りを露にして大声を上げる。


「今何時だと思ってるんですか…さっさと起きて顔洗いなさい!!!!!!!」


次の瞬間、彼の体にかけられていた布団は手荒くひっぺがされた。


***


「駄目ですよ、瑠音。女性はもう少しおしとやかにしないと。」


はぁ…と溜め息をつきながらボリボリと頭を掻く彼に失笑した。

まさか彼の口から『おしとやかに』なんて単語が出る日が来るとは。


「余計な御世話です!!毎日毎日昼間まで寝て…お昼ご飯食べたら今日こそハローワークまで行ってもらいますからね!?」


そう噛み付くように返しても、彼は困ったように笑いながら蓮華でご飯を掬って口に運ぶだけだった。

ちゃっかり向かい側の椅子に座って瑠音が作った炒飯をモグモグ食べているこの男の名前は『練紅明』。


只今失業中(いわゆる自宅警備員)の27歳。
いつの間にやら瑠音の家に住み着いて、世間一般的に言えば『ニート』―――言い方を優しくすれば『居候』をしている青年である。

炊事や洗濯は勿論の事、家事と名の付く物の類いは全く出来ないため、諸々の世話はほとんど瑠音にしてもらっており、彼女の勧めで何度かハローワークには出向いているものの、脱力系男子であるがために面倒くさがってすぐ辞めてしまうのだった。


何故こうなったかというと…。

ちょうど半年前にこのアパートの入り口で行き倒れていた彼を見つけ、慌てて助け起こしてしまったのが『瑠音の運の尽き』と言うべきなのか『瑠音の幸運の始まり』と言うのか…何とも微妙な線引きであるが。


おかしな事に『腹がへった』と初対面の者にのたまう彼を特に警戒もせず、瑠音は紅明を易々と自分の部屋に入れて簡単な料理を出してしまったのだ。

それでもって、腹を満たしたすぐ後に『行くところがない』と言い出した彼に『しばらく泊まっていけば?』などと何故軽々しく口にして奥の部屋を提供してしまったのだろう?


今冷静になって考えれば、そんな不審極まりない男を何故部屋に入れたのかは未だに謎であるが、その時、心のどこか隅の方で紅明の事をカッコいいかもしれない…と思っていた自分がいた事も確かである。

つまり、彼氏もろくに居なかった自分にもこういう運があるものだと舞い上がっていたのだろう。


「瑠音、おかわり。」


空っぽになった皿を突き出しておかわりを要求してくる彼に、慣れた手付きでフライパンにあった残りの分をよそってやり、目の前におくと、丁寧にまた『いただきます』と言って食べ始める。


「ああ、そうだ。ハローワークに行くときくらいはちゃんとした格好をしてって下さいね?」


「と、言いますと?」


「…その髪とか、服装とか。」


寝癖がつきっぱなしでボサボサと跳ね上がっている彼の赤い髪に半強制的に櫛をとおして、腕につけていたゴムで簡単に縛ってみるが、何となくしっくりこない。

男性にしてはいやに髪が長すぎるせいだろうか?


「いっそのこと、短く切ったらどうですか?」


さっぱりした方が扱いやすいと思いますけど。

何となく言葉を発すれば、気怠そうに鈍い光を宿す彼の瞳が優しく細められ、口許には笑みが浮かぶ。


普段だらしのない彼の姿を嫌というほど視界に入れているにも関わらず、たまに見せるそういう表情には不覚にもドキリとしてしまうから余計悔しいものだ。


「そうですね…瑠音がそう言うなら。」


御馳走様でした、と小さく呟き、準備をしに奥の部屋に消えていく彼の背中をぽけっと見送り、数分後にハッと我に返る。


「そうだ、紅明さんのワイシャツにアイロンかけないと!!」


今度こそ、紅明さんが途中で仕事を辞めたりしませんように…。

こっそり祈りを込め、瑠音はクタリとしたスボンとシャツにアイロンをかけはじめた。


end

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