桃と鬼 | ナノ
 07

『こちらから、今まで嗅いだ事のない独特な血の匂いがする。』

『そこまで強い匂いではないので、もしかしたら屋敷の中で逃げ延びた人が見つかるかも知れない。』


…そう言う炭治郎に先導され、暗い廊下を三人で連れ立って歩く事しばし。

とある襖の目の前で、彼が足を止めたのを見てすぐ、こちらもつられて立ち止まると。


彼はこちらを振り返り、唇に人指し指を当てて無言で指示をしてくる。

『勿論、』とは言えない代わりにてる子と共に頷けば、彼は再度襖へ向き直り、利き手は刀にかけたまま───音が出るほど、勢い良く障子を開け放った。


炭治郎の思い切った行動により、一瞬にして明らかになった座敷の内部。

その最奥の間には、柿色の着物を着た短髪の少年が、何やら見覚えのある鼓を構えて座っていた。


これまで渡ってきた廊下には、ごろごろと。

それはもう、至る所へと骸が散らばっていたので、正直絶望的な気分にはなっていたが…ここで生存者に出会えるとは。


「(…とりあえず、傷の視診を。)」


喜んだのもそこそこに、彼女が一歩踏み出した途端。

───少年が『ひゅ、』と息を吸い込み、酷く焦燥した表情のまま、鼓を叩こうと手を振りかぶったその時。


「清兄ちゃん…!!!」


少年の手が鼓の皮へ触れるより早く、てる子が少年の物と思しき名前を叫び、百瀬の背後から飛び出した。

その声を聞き、姿を見て。
少年は呆然としながら、肩へ担いでいた鼓を取り落とした。


「兄ちゃん、兄ちゃん……!」


「てる子………、」


幼い彼等は互いに泣きながらしっかりと抱き合い、再会を喜びあっている。

…どうやら、この少年がてる子達の兄らしかった。


しばらく待って。
炭治郎と共にそろそろと近くに寄っていくと、柿色の着物を着た少年が不意にこちらを見てくる。


「あの────あなた達は?」


てる子の兄…清から寄越された問いかけを投げ掛けられてすく、百瀬はそちらへ軽く頭を下げ。

彼女の代わりに、炭治郎が言葉を発する。


「俺は、竃門炭治郎…こっちは東さん。俺達は、悪い鬼を退治しに来たんだ。」


簡単な説明と、名乗りもそこそこに。

『独りでよく頑張ったな、』と清を労い、怪我を診始めたのを皮切りに、彼女も炭治郎の隣へしゃがんだ。


ぱっと見たところ、様々細かい傷はあるものの、命に関わるような物はない。

これなら、先生から頂いている軟膏で間に合うだろう。


そんな事を思いながら懐を漁り、茶色い葉に包まれた軟膏と、下ろしたばかりの手拭いを取り出したその時。

ふと炭治郎の手元にも同じ包みがあるのを認めてすぐ、百瀬は自身の手に持った物をさっと背後に隠す。


「(危ない危ない…。)」


頭の中で、お館様直筆の書状の内容を改めて思い出しながら、彼女は小さく溜息をついた。

『持っている備品から自分の素性が知れてしまうかもしれない、』だなんて思わなかったから、何の気なしにそんな行動が出来てしまったわけだ。


今回は炭治郎に見られる前に、出した物を引っ込められたから良いものを。

万が一、彼からそこを突っ込まれてしまえば、どうにも誤魔化しようのない気がして…彼女の背を、ひやりと冷たい物が伝った。


丁度その時。


「すみません、東さん…傷を覆いきるには、手持ちの布が足りなくて。何か綺麗な布があれば、譲って貰えませんか?」


「…………。」


炭治郎から突然話し掛けられたのでびっくりしたが、不自然にならぬよう幾度か頷き。

彼女は軟膏と一緒に背中へ隠していた手拭いを彼の方へ差しだした。


「ありがとうございます!助かります!」


元気良くそう言って手拭いを受け取り、また手当てに戻った彼の手際は恐ろしく良い。

…この調子なら、手伝いは必要なかろう。


そそくさと軟膏を懐へしまってから、彼女は少年の近くへ転がった鼓を手に取り、観察を始める。

───これを目にした途端に感じた既視感は気のせいでは無かった。


「(…これは、)」


これは正しく、先程遭遇した鬼の体から生えていたのと同じ鼓であった。

この鼓が、鬼の体から離れた後も消えずに残っていたおかげで、少年はこの屋敷内でもどうにか生き延びられた、という事なのだろう。


そうしているうち、手当を終えた炭治郎が、こうなった経緯を少年に聞き始めたので、鼓は持ったまま話に耳を傾ける。


数日前の夜。
清少年は弟、妹と共に夜道を歩いていたところ、鼓の鬼に攫われ。

屋敷に連れ込まれて早々に食い殺されそうになったそうなのだが。


この屋敷に住まう他の鬼達と、鼓の鬼とが『誰が清少年を食らうか、』で仲違いをし。

その拍子に、件の鬼の体から落ちた鼓を必死に拾い上げて叩いたところ、部屋が変わってどうにか助かった───という事らしい。


それを聞いて『先程鬼が鼓を叩いていないのに部屋が変わったのはそういう事だったのか、』と合点がいった。

炭治郎も、清の話を聞いていて思う所があったのか、神妙な顔でこんな事を言い出す。


「“稀血”………あの鬼は、そんな事を言っていたが…………、」


本当に、何気ない一言。
しかし、清はそれに過剰な反応を見せた。


「そうだ、そう…あの化け物共、俺の事“マレチ”って呼ぶんだ………!!!」


『“マレチ”とは、何の事なのか。』

雄弁に物を語る清の視線を痛い程浴びながらも、上手く答えられないのか。


炭治郎は眉根を下げ…そのまま、こちらへ話しかけてくる。


「…東さん、“稀血”について、何か知っている事はありませんか?」


俺も、今日初めて聞いたもので…。

本当に困っている、というような声を聞きながら、彼女はおもむろに帳面を取り出して文字を書き付け、彼等の方へ差し出す。


『“マレチ”は、漢字では“稀”な“血”と書き、稀血と読みます。その名の通り、珍しい血の持ち主の事を表す言葉です。』


それを読むが早いか、炭治郎は難しい顔をし。
反対に、清とてる子は首を傾げた。


「あの…『珍しい血』って、具体的にはどういう事なんですか?」


再び炭治郎から寄越された問いかけに頷き、彼女は更に詳しい説明を書き付けて、再び帳面を差し出した。


『生き物の血には、様々な種類がありまして…勿論、普通の血にも様々な型がありますし、それは稀血も同じです。』

『稀血の人間は、鬼からすれば滋養に富んだ食物…分かりやすく例えると、鰻や卵なんかに相当する食べ物なのだそうです。加えて、稀血の型が珍しければ珍しいほど、鬼にとっては大層なご馳走になると聞いた事もありますね。』


そこまで読んで、俄に恐ろしくなったのか。

清は今にも泣きそうな顔のまま、掴みかからんばかりの勢いでこんな事を言い出す。


「じゃ、じゃあ…これから、どうしたら良いんですか!?このままじゃ、俺はここから出られても、一生あんな化け物から追い回されるだけじゃありませんか…!」


青い顔をしながら詰め寄ってくる彼をどうにか留め、百瀬は自分の隊服の胸ポケットを探り、小さな匂い袋を取り出して清へ差し出す。

それを恐々受け取り、彼は困惑したような表情のまま、彼女の顔に括りつけられた兎面を見つめた。


「………うわあ、とっても良い匂い!」


そう言って喜び、兄の手へ渡った袋に触れているてる子を微笑ましく見守っていると、清は眉を下げ、上目に彼女を見て問うてくる。


「…あの、これは?」

『藤の花の匂い袋です。』


すかさずそう書き付けた帳面を見せると、少年は首を傾げた。


「藤の花…?良い香りはしますが…こんな物、一体何の役に立つんです?」


確かに、そう思うのも無理はないだろう。

彼女は、先に『先程は怖がらせてしまったようで申し訳ありませんでした。』と帳面に書き付けた物を見せて頭を下げ、また文字を書き連ねる。


『鬼は、藤の花の匂いを嫌います。これを肌身離さず身に付けていれば、あなたの体から香る稀血の匂いを誤魔化す事ができるでしょう…私の物で申し訳ないのですが、よろしければお持ち下さい。』


帳面を清に差し出すと、彼は驚いたような顔をし。

…けれど、どこか安堵したように表情を緩ませ、言葉を発する。


「その…東さん、でしたか?ありがとうございます…俺の方こそ、急に大きな声を出したりして、すみませんでした…。」


言い終わると同時に、彼の頭はこちらに向かって深々と下げられる。

まだ子どもらしさの残る清の肩に手をかけ、頭を上げてもらおうとした瞬間。


───今まで、彼女と清のやり取りを静かに眺めていた炭治郎が、急に顔色を変えて後ろを振り返る。

それにつられて百瀬も振り返り、今し方自分達が入ってきた方に位置する襖を見やり、目を細めた。


ここから、然程遠からぬ場所。

廊下に貼られた板を踏みしめ、ゆっくり…けれど、確実にこちらへ向かってくる足音が聞こえる。


「(この、じめじめとした嫌な気配…。)」


思い当たるのは、あの鼓の鬼意外にない。

それが間近に迫っているともなれば、いつまでもこうしているわけにはいかない。


どちらともなく顔を見合わせ、無言の内に頷くが早いか、炭治郎は清とてる子に向き直り、小さな声で話を始め。

百瀬自身は、足早に入ってきた方へと向かい、襖をほんの少しだけ開けて廊下側へ頭を出し、辺りの様子を探る。


妙に広く、不気味な薄暗さが横たわる廊下。
その先から、一歩。また一歩と、足音が迫ってきていた。


***


何処までも続くように思われた廊下の薄暗がりから、ぬっと件の鬼の顔が見えた途端。

百瀬は炭治郎を待たずして廊下へ走り出て、鼓の鬼と対峙する。


続いて、炭治郎がこちらへ走ってくる音と共に、清とてる子の居る奥の間から、ポン…と鼓を叩く音が聞こえた。

相も変わらず、何事か呟きながら俯き加減にこちらへ向かってくる鬼の顔を面の内から眺め、彼女はベルトに挟んだままだった刀へ手を掛ける。


そのうち。

鬼の歩みはぴたりと止まり、彼女の二倍はあろうかという巨体に乗った頭が緩慢に動き、じとりとこちらを眺め下ろしてきた。

こちらも臆せず、鬼灯のように赤いその瞳を見返すと───鬼は顔を顰めながら、酷くゆっくりと口を開く。


「………あぁ、またか。またこの匂い…忌々しい……桃。胸が焼けるような桃の花の匂いだ。」


「………………。」


「………今すぐ…今すぐ摘まみ出してやらねば……小生の屋敷にまで、匂いが移る……!」


ごく一方的に言って、鬼が鼓に手を伸ばしたのが見えたので、彼女はこれ以上近寄るのを諦め、後ろへ飛んだ。

その途端。
部屋がぐるりと回転し、彼女が居た所には獣の爪のような跡が走る。


「───東さん!!すみません、遅くなりました!!」


後ろから飛んできた炭治郎の声に振り返ると、部屋の回転に合わせて受け身を取りながら、こちらへ来ようとしている彼の姿が見えた。


しかし、その動きにはいつもの軽やかさがなく、額には脂汗が滲んでいて。

…やはり、折れた肋と脚が痛んでいるのだろうと思うと、このまま彼を前に出すのは忍びない気がした。


だからと言って、作戦があるわけでもなく、この状況下ではそんな物を流暢に捻り出す隙すらあったものでは無い。

そうしているうち、部屋は鼓の音を伴いながら、再び回り出す。


右へ、左へ…それからまた右へ。

その間も縦横無尽に飛んでくる爪の攻撃をかわしているうち、炭治郎と百瀬は、同室にいながらにして引き離されてしまう。


彼が上なら、こちらは下。
こっちが右なら、彼は左。

前へ近付いたかと思いきや、また引き離され…時偶来る爪の攻撃を避けながら、ひたすら受け身を取る。


無茶苦茶な動きを強いるような攻撃により、流石に疲れが出て来たのか。

前方に居た彼の動きが鈍くなり始めたのに気が付き、何か動きを起こそうかと考え始めた瞬間。


「───はい、ちょっと静かにして下さい!!!」


いきなり。

何の前触れも無く炭治郎が大声を発したので。
百瀬は勿論、鬼ですら動きを止め、何事かとそちらを見やる。

そうして、一時的に回転の止まった部屋の中、彼は刀を構え、こんな事を言い出した。


「俺は今までよくやってきた!!俺はできる奴だ!!そして今日も、これからも…折れていても!!───俺が挫けることは、絶対に無い!!!」


聞いているこちらが驚く程の大声で自身を鼓舞した後、彼は果敢に鬼の方へ向かっていく。

…これも一つの戦法なのだろうか?


また始まった部屋の回転と攻撃をどうにかかわしながら、彼は間合いの内へ入ろうと、一進一退しながらも前へ向かっていく。


「クソ、忌々しい…早く稀血を喰わねばならないというのに………!!」


鬼が苛立ちの声を発すると同時に、炭治郎は一撃を避けた後。


「…………君、名前は!?」


驚くべき事に、鬼に向かって名前を問うた。

あちらも、まさかそんな事を聞かれるとは思いもしなかったのだろう。

鬼も多少面食らったような顔はしていたが『───響凱、』と、彼につられて自身の名前らしき物を口にする。


「響凱…清、いや。稀血は渡さない!!俺は折れない、諦めない…!!!」


「……………っ、小生は、稀血を得て、十二鬼月に戻るのだ………!!」


炭治郎の一言が余程気に食わぬ物であったのか。

響凱のあらん限り見開かれた左の瞳には、薄らと『下弦ノ陸』と刻まれた文字が見えた…同時に、それを打ち消すように、文字の上から×印が付けられているのを見て、百瀬は面の下の表情を曇らせる。


「(確かに、あなたは十二鬼月であった事もあるのかもしれない、)」


でも、強くなれば強くなる程。
鬼狩りに遭遇する比率は上がり、命を狙われる機会も多くなるというのに。

過去の栄華を今尚追い求めるその姿を憐れみながら、俄に激しくなった攻撃を避け。
彼女は炭治郎と付かず離れずの距離を取りながら、若いその背中を追いかける。


そのまま、互いに譲らず、一向に動かぬ戦況に痺れを切らしたのか。

響凱は額に青筋を浮かべ、あらん限りの声で叫ぶ。


「消えろ、虫けら共…尚速、鼓打ち…………!!!」


───これは少し、まずいかもしれない。

そう思って間もなく。
激しく鳴り響く鼓の音と共に、先程からの物とは比べ物にならないほどの速度で部屋が回り出した。


目が回らぬよう、回転方向に目線を向けつつも、何か背筋へ寒い物が走り…強烈に嫌な予感に従い、ただ前方を眺めると。

鼓の音に合わせて放たれた爪の攻撃が三本ではなく五本になり、それが炭治郎の喉笛へと物凄い速度で差し迫っているのが見えたのだ。


「……………っ!?」


───あんな物が直撃すれば、誰だって間違いなく輪切りだ。

けれど、今の炭治郎の状況では、自分で攻撃を避けるのは厳しいだろう。


そう判断するが早いか、彼女は炭治郎の方へあらん限り手を伸ばして、どうにか市松模様の羽織を掴み。
勢いもそのまま彼の体をぐいと後ろへ引いて、とりあえず炭治郎と自分の位置を入れ替える事に成功する。

後ろから彼が何か叫んだのが聞こえたが、それを聞き取る余裕はなかった。


「(…とりあえず、今はこれで大丈夫。)」


安心して、一息ついたその刹那。


───ザシュ、と。

妙に生々しい音が聞こえたのと共に、やや遅れて。
自身の体へ鋭い衝撃が叩きつけられる。


『これは流石に受けきれないな、』と。
咄嗟に身を捩ったのが良かったのか、どうにか首と胴が泣き別れるのは防ぐ事が出来たが。

衝撃があった場所…彼女の胸元と腹の皮膚は、熊の爪でも当てたかのようにざっくりと裂け…更に遅れて、その合間から生温い血潮が噴き出し、すぐ真下の畳をどす黒く染めた。


「………東さんっ!?!?」


最早悲鳴に近い彼の声を聞きながら、彼女は畳の上へ着地して深々と息を吸い、至極冷静に呼吸を使って止血を試みる。


見た目が大惨事という事も手伝ってか、炭治郎は自身の着地した場所から青い顔でこちらへ走り寄ってきていたが。

…呼吸を使って体を探ってみた限りで言うと、先程の一撃はどれも臓物までは達しておらず、そこまで大層な怪我には入らない部類である。


そもそも、痛みは感じないので然程苦ではないし、強いて言うなれば、傷が熱を持ち始めて不快な事以外に不都合はない。

そんな事を考えていると、不意に『パキ…』という聞き慣れない音が響き、いきなり視界が開けた。


「!?」


ばっ、と下を向いて確認すると、つけていたはずの兎の面が真っ二つに割れて畳の上へ落ち。

顎からぽたりと血が垂れたのを目にして、全てを察した。


「─────!」


先程の爪が顎に擦り、時間差で面が割れたのだ。

咄嗟に畳の上へ突っ伏し、顔が見えないようにしたものの…残念ながら、炭治郎からは『傷が痛んで辛い、』というような解釈をされてしまったらしい。


「…大丈夫ですか!?!?」


俄に彼の気配が近くなり、そっと肩へ触れながら『とりあえず手当てを…、』と言うのを制し。

顔は畳に俯けたまま、どうにか鬼の方を指差すと、炭治郎が戸惑ったように息を吐いたのを感じた。


考えずとも、彼がこちらの事を案じてくれているのが分かったが…それでは鬼は倒せない。

畳に顔を伏したまま首を横に振り、再度鬼の方を指差すと───彼は『…分かりました、待っていて下さい。』とだけ言って、刀を手に勇ましくそちらへ向かっていく。


腕と畳との間に空いた僅かな隙間から、彼がこちらへ背中を向けて鬼へ向かって行ったのを見送ってすぐ。
百瀬は炭治郎とは逆方向へ走り、そっと襖を開いて廊下へ退避した。

面を拾い上げる暇はなかったため、あそこへ置き去りにしてしまったが。

面自体は、任務が終われば必要のない代物と化すし、炭治郎が鬼の首を刎ねた時点で彼女に課せられた任務は終わりで、後は速やかにこの場を離れるだけなのだから、その場へ置いたままでもそこまで問題にはならないだろう。


呼吸で傷を塞ぎながら、そろりと襖越しに部屋の中を盗み見ると、彼は市松模様の羽織をはためかせ。

先程よりかずっと軽やかに動いて一直線に間合いを詰めていき────ついに、鬼の首を刎ねた。


「(…………お見事、)」


彼の鮮やかな仕事ぶりを間近で見届け、百瀬は思わず破顔した。


これならば、例え柱合会議に引きずり出されたとても、炭治郎はしっかり鬼の討伐をこなし、成果を上げ続けているのだから、然程無下に扱われる事もないだろう。


───そうして、彼女は静かに踵を返し、足早に裏口を目指す。

唯一の心残りがあるとすれば、共に任務をこなした隊士として彼に挨拶が出来なかった事だが…顔を見られる危険がある以上、ここから一刻も早く離れる事が先決だ。

血痕を辿って追いかけてこられぬよう、よりいっそう深々と呼吸をしてどうにか血を止め。
彼女は本来の姿を取り戻した屋敷の廊下を渡り、勝手口を目指した。

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