満たされない
2011/08/04 11:51

昔々、あるところに三人の幼馴染がいました。

一人は美しいアッシュグレイの髪に青紫の瞳。
どことなく儚さと春を漂わせる少女でありました。
一人は黒い髪に黒い目、大雑把に切られた髪型が不思議と似合う表情。
夏の爽やかさと暑苦しさを表現したような少女でありました。
一人は柔らかそうな薄茶の癖っ毛に焦げた茶の目。
まるで木の葉を栞に使っていそうな文学少年でありました。

三人はあまりにも違っていました。
趣向も違えば雰囲気も違う。
けれど三人はお互いのことが大好きで大好きで仕様がないほどでした。

一人目、春を再現したような少女、断羽桜はこう言いました。

「柳さんも椛さんも大好きです、ずっとずっと一緒にいて欲しいです」

二人目、夏を再現したような少女、窕意柳はこう言いました。

「さくももみも、あたしがぜってー守ってやるからなっ!」

三人目、秋を再現したような少年、弐影椛はこう言いました。

「桜子もやなぎんも愛してるよ。だから愛してね」


そんな依存症のような彼女たちの間柄でしたが、この間には幼馴染以外の感情がありました。

窕意柳。彼女は桜を妹のように思っており、椛のことが少しだけ異性の意味で好きでした。
弐影椛。彼は桜を一番に好いており、柳の気持ちは知っていましたが友達を貫いていました。
断羽桜。彼女は柳のことが全人類の中で一番大好きで、椛のことも二番目に大好きでした。

そんな幼馴染の関係を高校生まで貫いていきました。
けれど高校に入ったときからこの三人の輪の中に一人、入ってきました。
正しくは桜が連れてきたのですが、他の二人、特に椛からすれば三人の仲を潰されるんじゃないかと最後の一人をひっそりと嫌いました。

最後の一人、冬を再現したような少年、夕空×××はこう言いました。

「柳、柳、大好き。愛してる、柳」

こうして一人増えたことで後の人生が大きく変わりました。

柳は椛に恋心を抱いたまま、×××と結婚いたしました。
×××は柳の心を知っていましたが、それでもいいと思い柳を愛しました。
椛は大事な幼馴染の柳を盗られたことに腹を立てましたがその代わりに桜と結婚しました。
そして桜は、全てを成功させました。

桜はずる賢く、姑息な手を使うことに躊躇などしませんでした。
彼女はその儚い容姿に似合わないほど強欲でありました。
そのことを知っていたのは椛だけで、柳は全く知りませんでしたが。

桜は椛と結婚することで椛を手に入れました。
そして椛と柳を結婚させなかったことで柳を手に入れました。
×××と椛と自分という枷を作り、柳をこの幼馴染の中に閉じ込めてしまいました。
桜は元々窕意柳が一番好きなのです。
底なしに明るく、悩みも何もかも吹き飛ばすような彼女が大好きだったのです。
それは憧れのような初恋で、陶酔のような愛情でした。

椛は全部分かっていました。
桜が一番好きなのは自分ではないことを。
柳のことが一番好きだっていうことも。
それでも椛は断羽桜のことが大好きだったのです。
ずるくて卑怯で自分勝手で全部を欲しがった彼女が大好きだったのです。
だからなんでも良かったのです。
傍にいれれば、なんでも。

二組の夫婦から子供が産まれました。
それから数年経った後に、桜が死にました。
元々体が強くなかったので子供を産めたのは奇跡のようなことでした。

それを受けて、柳と×××は離婚しました。
何とも抽象的な理由でしたが少なくとも柳にとっては決定打でした。
桜がいなければ椛は駄目になってしまいます。
ですから柳は大事な幼馴染を守る為に×××と別れました。
二人とも泣きました。
けれども何も変わりませんでした。苗字さえも変わりませんでした。


それから彼女たちの子供に受け継がれる訳なのですが、この四人の影響力は強く、子供たちそれぞれに強く根付きました。

夕空試は桜に憧れ柳の真似事をし椛に世話を焼き、×××を親と思えませんでした。
弐影呼吸は桜を憎むと同時に強く影響され柳に憧れ椛から一歩離れ、×××を嫌いました。
弐影世界は桜にトラウマを植えられ柳を羨み椛を薄く好み、×××に恋をしました。

そんな想いを渦巻かせながら、彼女たちは成長しました。
まるで呪いのような感情が漂う場所で、親と同じ中学へ入り高校生になりました。


全ては桜の思い通りへとなりました。
しかし一つだけできなかったことがありました。
自分の死後、柳が少しでも幸せになればいいと思っていたのです。
椛に託したのですが椛はこの時ばかりは動けなかったのでありました。
桜がいなくなった後なんて考えられなかったのです。


今日も親子二世代の幼馴染は欠員を出しつつ今日も毎日をループするのでした。
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