- ナノ -

招待状に撒いた誘惑

リオセスリがそれに気付いたのは、シュレンに会ってすぐだった。所謂アシンメトリーな髪型をしている彼女は、右に比べて左の方が髪が短い。そのため左耳は隠れることなく晒されているわけだが、その柔らかそうな耳たぶに、キラリと輝く小石が一つ。深海を彷彿とさせる色をしたその存在は、小さいながらにも激しくその存在を主張しているかのように、リオセスリには映った。

彼の記憶が正しければ、前回のお茶会どころか、それ以前から、シュレンはピアスなんてつけていなかった。初対面の時は彼女の耳がヒレの形であったとは言え、彼女の睫毛をはっきりと視認できる程度には近い距離にいたのだ。何かしらアクセサリーの類いがあれば、気付くことはできたはず。

とにかく、シュレンがそういったものをつけている印象は、少なからず彼にはない。もしかすると仕事以外ではしているのかもしれないし、気に入ったものがあってつけているのかもしれない。特別違和感を覚えるようなものでもないのだろうが、リオセスリとしては、シュレンのことはどんなことでも把握していたかった。それがたとえ些細なことであってもだ。

突然に突っ込むのは些かスマートさに欠ける。話の中で、さりげなく探っていけばいい。そんなことを考えながら、前回のお茶会で渡した茶葉のお礼だと言って差し出された紙袋を受け取った。一つはリオセスリに、もう一つはシグウィンへのものだと伝えて、シュレンは赤いソファーに腰掛けた。


「フォンテーヌ廷にあるケーキ屋で買ったものでね。紅茶に合うものを、と聞いて勧められたものにしたから、一緒に食べるのにいいと思うよ。ちなみに、ジャムの方はヌヴィレット様からだよ」

「ヌヴィレットさんから?」

「彼と一緒に味わったんだ。それで、自分もお礼がしたいんだってさ」

「そりゃまた随分と気を遣わせちまったか?」

「気にすることはないよ。遠慮せず受け取ってくれたらいい。ただよければ、ジャムを使った時にその感想もくれるとありがたいかな。彼はきっと喜ぶだろうから」


テーブルにはティーカップが二つ。せっかくだからとシュレンが持参した手土産のお茶菓子――中身はマドレーヌだった――も皿に盛って、お茶会の準備が整ったと同時。下から扉の開く音がした。

看守たちには、余程のことがない限りはシュレンとのお茶会の時間には執務室に来ないよう伝えてある。まさかその「余程のこと」でも起こったのかと彼は眉間にしわを寄せたが、階段を上ってくる足音の軽さに、すぐにしわはほぐれた。


「公爵!もう、またウチを除け者にして!」


丸くて大きな瞳をキュッと釣り上げながら、むくれた様子で現れた人物、基メリュジーヌの存在に、リオセスリは振り返って肩を竦めた。


「これはこれは、看護師長。人聞きが悪いな。べつに君を除け者にしたわけじゃない。なに、うっかり教え忘れていただけさ」

「そんなこと言って、わざとなのはわかってるのよ。ウチだってシュレンさんとお茶会がしたいのに」

「お言葉だが看護師長。彼女は俺とのお茶会が終わった後に、わざわざ看護師長のところに出向いてくれてるだろ?」

「ええ、挨拶に来てくれてるわ。でもシュレンさんも忙しいから、あんまりたくさんお話はできないの。少しの雑談と、ヌヴィレットさんのことを教えてもらうだけで、あっという間に時間なんて過ぎてしまうんだから」


じとりとした目をリオセスリに向けていたシグウィンだったが、シュレンの方へ視線を移すとすぐに嬉しそうに笑いながら、彼女へと駆け寄っていく。それを横目に、リオセスリは立ち上がってティーカップをもう一つ取りにいった。


「こんにちは、シュレンさん。今日のお茶会は、ウチもご一緒していいかしら?」

「こんにちはシグウィン殿。わたしは大歓迎だよ」

「うふふ、ありがとう」


隣に座ったシグウィンに、ああそうだ、とシュレンは紙袋を手に取って、彼女へ差し出した。不思議そうに紙袋とシュレンとの顔を交互に見るシグウィンに、シュレンはにっこりと微笑むと、贈り物だと伝えた。


「わたしと、ヌヴィレット様から。前に化粧水をくれただろう?あれが中々良くてね。わたしからのはそのお礼。ヌヴィレット様からは、その時彼宛にってくれたミルクセーキのお礼だそうだよ」

「まあ、ありがとう!気を遣わせちゃってごめんなさいね」

「気にしないでおくれ」


貰った紙袋に瞳を輝かせたシグウィンは、一度嬉しそうに抱きしめてから、それを自身の隣に置いた。そうして、名前が出てきたヌヴィレットのことを尋ねる彼女に、シュレンは息災であると伝える。


「この間、それこそ二人へのお礼を買いに行った日は、珍しいことにわたしと彼の休みが重なってね。随分と連れ回してしまったよ」

「へえ、そりゃあさぞかし視線を集めただろうな」


ティーカップを用意していたリオセスリが戻ってきて、彼はシグウィンの前にカップとマドレーヌを乗せたお皿を置いた。ポットから紅茶を注いでやれば、改めてお茶会の準備が整えられる。彼は自身の分に角砂糖を入れながら、興味深げにシュレンへ視線を向けた。


「そうだね、だいぶ浴びたよ。けれど、元々は彼がちゃんと休日を過ごしてますよ、というのを見せるのが目的だったからね。そのためにフォンテーヌ廷を一周くらいするつもりで歩いたんだ。こちらとしては、注目はあればあるだけいい」

「なるほど。それで連れ回したってわけか」

「もしかして、そのピアスもその時に買ったもの?シュレンさんがそういうものをつけてるのは初めて見たから、ずっと気になってたの」


僅か、本当に一瞬だけリオセスリは動きを止めたが、幸いシュレンはシグウィンの方を向いていたため、彼女に気付かれることはなかった。

晒されている左耳と、時折髪の隙間から覗く右耳に、各一つずつ。チカリと、ささやかな光を見せる青へと触れたシュレンは、随分と機嫌良さげな笑顔を見せた。


「ご名答。その通りだよシグウィン殿。元々、フォンテーヌに来る前は、ピアスと、あとネックレスもよくつけてたんだ。ただ、持ってた分は璃月に全部置いてきてたのもあって、こっちに来てからはつけてなくてね。今更つけるのも、と思ってたから」


しかし、ヌヴィレットにされた指摘を受けて、納得してしまった。「今更」なんて些事だ。やめた理由も大したものではないのだから、またつけはじめる理由だって、そんなに深く考えなくていいことだ。それこそ、ヌヴィレットが言ったように「またつけたくなった」だけで事足りる。

仕事柄派手すぎるものは場に合わないので、至ってシンプルなものにしているのだと話している最中、彼女は一人小さく肩を震わせて笑いを抑えはじめる。そんな様子にシグウィンが彼女の顔を覗き込めば、なんともおかしそうに、噛み殺せない笑い声を漏らしながら口を開いた。


「せっかくだからと、贅沢にも最高審判官様に意見を聞いてね。そしたら彼、どれも似合うだろう、なんて言うんだよ。いつの間にそんな言葉を覚えたのかと思わず感慨深くなってしまった。まあ、こういう海の色は特に合うと私好みの言葉も頂いたから、これにしたんだ」

「そうだったのね!でも確かに、シュレンさんは青がよく似合うわ」

「ありがとうシグウィン殿。ふふっ、実のところこれはね、彼がプレゼントしてくれたんだ。いつものお礼らしい。なんだか嬉しいような、むず痒いような……息子から贈り物を貰った母親というのは、こういう気分になるのかな」


冗談混じりな彼女の言葉に、まあ!と頬に小さな手をあてながら、シグウィンは声を上げて興味津々に彼女を話を聞いている。その一方で、リオセスリの心中はあまり穏やかとは言い難いものだった。

シュレンから、ヌヴィレットとは恋人ではなく、また彼に抱く好意は色恋のそれではない、と証言は取っている。仕事柄相手が嘘をついているかどうかを見抜く自信が彼にはあった。故に、彼女の言葉に嘘はないと、リオセスリは断言できる。実際今も、「息子から贈り物を貰った母親の気分」だとか、「いつの間にそんな言葉を覚えたのか」だとか、発言が一々親目線だ。かの最高審判官を相手にそんなことが言えるのは、どこを探してもシュレンくらいなものだろう。

そんな彼女は、ヌヴィレットも自分と同じ気持ちだろう、と言っていた。しかしこれについては真偽が曖昧だ。何せシュレンの主観的な意見であって、ヌヴィレット本人から得た言葉ではない。彼女がそう思っているだけで、向こうにはそれ以上の気持ちがある可能性は決してゼロとは言えないのだから。


「しかし、急にアクセサリーなんてつけはじめたら、周囲からも何かしら勘ぐられたんじゃないか?」


ヌヴィレットの本心も重要ではある。だがそれに加えて、二人を取り巻く周囲からの印象もまた、リオセスリの心中の平穏を遠ざける要因であった。

彼女とヌヴィレットは、仕事上では当然ながら近い位置にいる。それはプライベートでも同様だ。休日を共に過ごし、アクセサリーを贈ったともなれば、周囲は二人を恋人だと思うのは深く考えなくとも予想できる。その上、普段食事まで用意しているとなれば、最早通い妻、もしくは事実婚と認識されたっておかしくはないだろう。

どちらも容姿端麗だ。それにシュレンは女性にしては身長が高く、リオセスリとも十センチ以上の差はないだろう。そのためヌヴィレット並んでいても見劣りしないスタイルをしている。並んでいて絵になるというのは、リオセスリとて強くは否定しない。

業務に関することならいざ知らず、水の上で暮らす民衆の世間話の話題の一つなような噂を知る機会など、メロピデ要塞から滅多に出てこないリオセスリには早々ない。仮に流れていたとしても、ヌヴィレットもシュレンも事実と異なる内容は即座に否定するだろうことは想像に容易い。

しかし、たとえ噂や憶測だとしても、相手が最高審判官であっても、シュレンが自分以外の誰かとそんな関係性だと不特定多数の者に思われている、勘違いされている、というのはリオセスリとしては決して気分が良いと言えなかった。

その辺り、第三者から見てどう捉えられているのかを知るにも、都合の良い話題の最中だった。どう切り出すかと己が思考を巡らせている間に、シグウィンがピアスに触れてくれたことはリオセスリとしてはありがたかった。そのおかげで、彼は自然に聞きたいことを会話に忍ばせることができる。本当は二人きりでお茶会をしたかったというのは紛れもない本音ではあるが、今回ばかりは乱入してきた看護師長に頭が下がるばかりであった。

彼女の反応、視線に表情、唇から紡がれる一音一音。それら全てを見逃したり聞き漏らしたりしないよう、リオセスリが注意深くシュレンを見つめるなか、一度瞬きをしたシュレンは、耳の方向へと視線を動かしながらおかしそうに笑みをこぼした。


「勘繰られたかはわからないけれど、いろんな人に聞かれたよ。みんなよく気付くものだと感心してしまうね。あんまりにも褒めてくれるものだから、つい息子自慢みたいなものをしたくなってね。ヌヴィレットから貰ったと教えたら、相変わらず仲が睦まじいのですね、だって」


余程、嬉しかったのだろう。恐らくヌヴィレットから貰ったのも、周囲からの言葉も。後者に関しては「自分」ではなく「ヌヴィレットがくれたもの」――周囲はきっと彼女自身を対象としていただろうが――を褒めてもらえたことが。

ついつい頬が緩んでしまうのを抑えきれていない彼女の表情は、リオセスリには初めて見るもので、ただただ感情は冷えていくばかりだ。その笑みは決して、己が引き出したものでもなければ、生み出したものでもないのだから。

恐らく本人も無意識だろう。シュレンはいつもリオセスリの前ではヌヴィレット「様」と呼んでいるが、敬称が外れている。公務以外では呼び捨てであると察するのは早かった。


「前の話を蒸し返すようで悪いが、あんたら本当にデキてないんだよな?」

「そんな事実はどこにもないよ。だいたいわたしはそれを初めて人に聞かれた時、笑いすぎてしばらく動けなかったんだから。まさかわたしと彼が?そんな面白い冗談ある?ってね」


心底その質問がおかしかったようで、シュレンはまたも思い出し笑いで肩を震わせている。

シュレンは、ヌヴィレットに対して色恋に関連する感情は抱いていない。それは事実として間違いないのだろうが、しかし彼女にとってヌヴィレットの存在が特別であるのは明白だ。二人の付き合いはそれほどまでに長い。人間一人の寿命など、比べるまでもないくらいに。そのため、互いに気の置けない仲なのだろう。

つい苛立ちが顔にまで出そうになるのを堪えて、リオセスリはそれを紅茶と一緒に飲みくだした。食堂を通って胃へと落下していくわけだが、液体に混ざって鉛も流れていっているような感覚に、好みのブレンドをいつもより味わえた気がしない。


「ああ、そうそう。ピアスを買った日に、実はティーセットも買ったんだよ」


楽しげにシグウィンと話していたシュレンが、思い出したようにリオセスリの方を向いたので、彼はすぐに表情を繕って、ティーセット?と聞き返した。シュレンには彼の嫉妬や苛立ちで煮詰まっている心情に気付かれていないが、シグウィンにはお見通しなようで、ピクピクと耳を動かしながらリオセスリの方へ目線をやった彼女は、こっそりと呆れ顔を浮かべている。


「うん。お恥ずかしい話、家にティーセットを置いていなくてね。君から茶葉を貰った機会に買ってみたんだ」

「言ってくれたらプレゼントしたんだがな」

「流石にそこまでしてもらうのは申し訳ないよ」


シュレンは軽い冗談と受け取っておかしそうに笑いながら返したが、リオセスリの言葉が実際のところ本気であることを、彼自身とシグウィンは正しく認識している。ティーセットがない、というのはリオセスリには予想外だったので、そこまで頭が回らなかったこと悔やみつつも、こっそりとほくそ笑んだ。

自分が贈った茶葉を飲むためだけに、今まで所持していなかったティーセットを買った。こんなの、はっきり言って些細なことだ。自身が彼女から与えられた影響の十分の一もないだろう。けれど、シュレンの日常生活の中に、僅かながらであれどリオセスリは干渉できた。それは、とても気分がいい。

先程まで急降下していた気分が、僅かにだが浮上する。片想い相手の言動の一つ一つでこうも一喜一憂するとはらしくないと思いつつも、感情の制御とはそれが大きければ大きいほど難しいもので。思わず綻んでしまいそうな頬を抑え、紅茶の淹れ方を教えてほしいと頼むシュレンに、リオセスリは快く了承した。

紅茶の淹れ方だけでなく、オススメの茶葉や懇意にしている店についても教えてやっていれば、思いの外時間というものはすぐに過ぎ去っていた。時計を確認したシュレンは瞳をぱちりと瞬かせると、カップに残っていた紅茶を飲み干した。


「さて、わたしはそろそろお暇させてもらおうかな。今日は色々と教えてくれてありがとう、とても助かった。シグウィン殿も、色々と話ができてよかった。楽しかったよ」

「こちらこそ、おかげで良い時間を過ごさせてもらったよ」

「ウチもとっても楽しかったわ。またご一緒させてね」

「もちろん。わたしは大歓迎だよ」


カップを置いた彼女はサッと立ち上がる彼女に出入口まで見送ろうかとリオセスリは聞いてみたが、今回もまた「多忙な二人の時間をこれ以上割くのは申し訳ないよ」などと遠慮されたので、素直に引いておいた。


「では、また次のお茶会で」

「ああ。次も楽しみにしてるよ」


執務室の扉の前までシュレンを見送ったリオセスリは、階段を上って彼女が座っていたソファーの方へ向かう。まだ残っているシグウィンは足をプラプラと揺らしながら、マドレーヌを食べていた。

彼がお茶会のために移動させていたイスを自身の仕事用の机のもとへ戻していれば、マドレーヌを全てぺろりとたいらげたシグウィンが、公爵、と彼を呼んだ。


「変に遠回りなことなんてしないで、素直に真っ向からアプローチしちゃえばいいのに。それとも公爵は、求愛行動が得意ではないのかしら」


呆れた様子で言うシグウィンを見やった彼は、ティーセットを片付けるためにテーブルの方へと歩み寄った。


「最初はそれも考えはしたさ、当然な。だが勝算がない」


一度フラれたからと言ってすんなり諦めるほど、リオセスリは繊細ではない。断られたとてアプローチは続けるつもりだが、しかしそれができるかどうかは、シュレンの行動によって大きく変わる。たとえば、彼女が接触を避けようと思えば、それは簡単に実行できてしまうのだから。ただでさえ会う機会に恵まれない環境なのだ、行動や選択を誤るわけにはいかなかった。故に、時間をかけてでも確実に、慎重に事を進めているのだ。

リオセスリは、シュレンのことを深くは知らない。出身は璃月、性別は女、職業は最高審判官補佐。食の好みはヌヴィレットに似ており、時々フォンテーヌの海を泳いでいる。加えて、種族としては純粋な人間ではない。今パッと思い浮かぶだけでも指で数えられる程度の情報だ。しかしお茶会を通して、多少の為人は知ることができている。そのため、仮にシュレンへ想いを伝えて断られたとして、彼女が自分を避ける選択をするタイプだろう、というのは容易く予想できた。


「だからまずは、準備を整えておくべきだ。その点、早い段階で彼女と定期的に会う約束を取り付けられた俺はとても幸運だった」

「ふうん……じゃあ、次はどうするつもり?」

「外堀を埋めたいんだが、方法を考えあぐねていてね。要塞内で完結するなら手間はかからないんだが、そうはいかないからな。そこで、ぜひとも看護師長の知恵をお借りしたい」


どこか胡散臭さを感じさせるくらいのにこやかな笑みは、向けられた者としては幾ばくかの恐怖を覚えてしまうだろう。だがシグウィンはなんてことない様子で、そうねえ、と顎に指を添えて考えを巡らせる。そうして、すぐに名案が浮かんだと言わんばかりに顔を上げた。


「公爵、シュレンさんがヌヴィレットさんからピアスを貰ったって話でだいぶ機嫌を損ねてたけど、自分もアクセサリーを贈ればいいのよ」


思わぬ提案に、リオセスリは僅かに目を丸くさせた。だが、それは決して悪い案ではないと頷いた。

シュレンとリオセスリのお茶会について、彼女と共に働いている者たちは多少把握しているだろう。毎月約束の日付と時間を記した手紙を、提出用の書類を出す際にシュレンへ渡すようにも頼んでいるのだから。

彼女が手紙を受け取るのは、必ず職場になる。シュレンは特に隠すこともせず、リオセスリとの約束の話もするだろう。その時点で彼女とリオセスリとの関係を勘繰る者もいるかもしれないが、いかんせんヌヴィレットの存在があるため、これだけではどうにも微妙なものだった。だからこそ、確かに、このタイミングでアクセサリーを贈るというのは中々の良案だ。

贈る方法は手渡しでなくていい。手紙同様のやり方で、職場で受け取る形が最適だ。ヌヴィレットからピアスを贈られた後に、リオセスリからも贈られたとして。何人かは、リオセスリのアプローチに気付く者も出てくるだろう。それは彼としてはありがたい展開だ。

そして何より、プレゼントを受けとったシュレンの反応も、きっと自分にとって好都合なものになると、リオセスリは確信していた。

彼女は驚いて、困惑して、意図を考えようとする。少なからずリオセスリに警戒心を抱いているのだから、何か裏があるのでは、という思考が出てくるはずだ。そうして、次のお茶会では、必ずプレゼントについて触れてくる。


「公爵、悪いお顔になってるわよ」

「ん?おっと、それは失礼」


再び向けられたじとりとした上目遣いをかわしながら、リオセスリは後片付けをはじめた。