02


「ここまでおーいで!」

ケラケラと子供達の笑う声が響く。

(ああ、いい加減にムカついてきた)

少年が再び声を上げようとしていたその時だった。

「ぎゃあぁ!」

財布を持っていた子供が急にそれを取り落し、手を引っ込めた。

どういうわけだか知らないが、取りあえず財布を拾おうと少年は手を伸ばすも、すぐに他の子供に拾われた。

「何やってんだよおま…イタァッ!」

また財布が地面に落ちる。

見ると、財布を落とした二人は腕を押さえている。

「どうしたんだよ!」

「何何!?何なんだ!?」

他の子供たちが二人を取り囲むように駆け寄ると、またその中で「アイタァ!」という声が聞こえた。

「誰だよ俺の腕つねったの!」

「知らねえよ、あイタ!」

「お前がやってんのか、イタイ止めろって!」

「ちげーよ俺じゃな…イッテェ!」

一体何があったのか、子供達は皆体のどこかしらに痛みを訴えた。

「チックショー覚えてろよな!」

結局、子供達は財布を地面に落としたまま、逃げるように走り去っていった。

「よ…良かったァー…でも、それにしても何だったんだ?」

少年はホッとしたような、不思議そうな顔で改めて財布を拾おうと膝を屈めた。

すると、財布のすぐ横に小鳥が居るのに気付いた。

「…もしかして、お前があいつらを追っ払ってくれたの?」

小鳥は少年のことをじっと見つめている。

自分も彼らのようにつつかれはしないだろうかと思いながら、おずおずと財布を拾う。

しかし、小鳥は襲い掛かる気配は見せなかった。

「やっぱり、僕を助けてくれたんだ…ありがとう!」

すると小鳥は「チチチッ」と鳴いて、財布を持った少年の手に飛び乗ってきた。

そして再び、少年のことをじっと見つめた。

(珍しい…小鳥が、手の上に乗ってくるなんて)

逃げてしまうだろうか、と思いながら、そっと反対の指を伸ばして頭を撫でてみた。

しかし小鳥は逃げるどころか、嬉しそうにその指にすり寄ってきた。

「すごい…小鳥を撫でるなんて初めてだ」

少年は今まで動物にまで完全に舐められていた為に、こんなに人懐っこい動物を見るのは初めてだった。

「お前はずいぶん人に慣れてるんだな…」

喉の下をくすぐってやると、小鳥は気持ちよさそうに目を細めた。

「チチチ」

「お前は可愛いねえ…あ」

小鳥は少年の手を離れて行ってしまった。

(行っちゃったか…)

すると、頭の上に何かが乗るような感覚を感じた。

「もしかして…頭の上に乗ってるの?」

「チチチ」

小鳥はそれに鳴き声で答えた。

「すごいや…こんなに動物と仲良くなったのなんて初めてだ!」



その日から、少年はどういうわけだか動物に好かれやすくなった。

この前のような小鳥を始め、トカゲや猫、嬉しくないがネズミにまで好かれるようになった。

しかし一方で、犬からは好かれるどころか、今まで以上に吠えたてられることが多くなった。

さっきまで飼い主と楽しそうに遊んでいた子犬も、少年が近づくと鬼のような形相で吠え始めるのだ。

それはあまりいい気分ではなかったが、それでも犬以外からはよく懐かれるのが単純に嬉しかった。

(…おかしい)

(何故、最近になって動物がすり寄ってくるようになったのか)

(それに)

(いつもいつも、その中におかしな気配を感じる)

(気味が悪い)

(あるいは自分と同じ)






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