02


その日はコマドリを肩に載せて街を歩いていた。

昼食は先程二人でピッツァを食べた。

(二人?)

(二人と一羽?)

(二人?)

今度は一緒にジェラートでも食べようか、と考えながら歩く。

(鳥ってアイス食べれたっけ)

「ワン、ワン!ワン!」

突然、道の向こう側にいた犬がこちらに向かって激しく吠え始めた。

最近になっては最早珍しいことではなかったが、今日はコマドリが一緒だ。

「大丈夫だよ、これだけ離れてるんだもの。噛み付きやしないさ」

しかし、コマドリは肩の上で「チチチ、チチチ」と神経質な鳴き声を出している。

「ほら、大丈夫ったら」

不意にコマドリが飛び上がったかと思うと、犬の周りで飛び回り始めた。

犬はますます激しく吠える。

飼い主は近くにはいないようで、ただ行く人の視線のみが一瞬その二匹の攻防をとらえた。

すると突然、犬が「キャイン!」と情けない声を出して後ずさった。

少年は一瞬だけだがその顔を視界にとらえた。

右目が潰されている。

その後戻ってきたコマドリの左足と嘴は犬の血で赤く染まっていた。

「どうしてこんなことするんだよ!」

流石に可哀想に思い、再び肩に止まろうとした小鳥に問いかける。

もちろん相手は人間ではないのだから、返事が返ってくるはずは無かった。

『あのワン公、前々からずっとうっとおしいと思っていたのよね。

ちょっと通りかかるだけですぐ吠えるし、飼い主の躾がなってないのね。

これだから犬は嫌いなのよ』

一瞬、少年にはその声がどこから聞こえてくるのか分からなかった。

『これでしばらくは黙っててくれると思うとせいせいするわ。

せいぜい飼い主に媚でも売って慰めてもらうことね』

まさか、と思いつつ、肩に乗らずに結局自分の腕に乗ったコマドリをじっと見つめた。

「…もしかして、今喋ったのって、お前なの?」

コマドリの顔がさっと少年の方を向く。

その眼は、今自分のことを見ているのが決して偶然などではないことを物語っていた。

『あなた…私の声が聞こえるの?』

「君だろ、君が喋っているんだろ?」

しばしの沈黙が流れる。

お互いに信じられないというような目をしている。

『…ここじゃ目立つわ。路地裏に行きましょう』

そう言ってコマドリは少年の腕から飛び立ち、「ついてこい」とでも言うかのように、少年の方を一瞥してから路地裏の方向へ飛んで行った。



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