頬に柔らかい感触がして俺は目を覚ました。天井にはでかい穴が空いていて綺麗な三日月と一番星、そして綺麗に微笑む土方が俺の髪を撫でている。頭の裏に感じる弾力は恐らく土方の太股であろう。

「土方……大丈夫だった?」
「ああ、すげェもん見せて貰ったぜ?」

ニヤリと笑った土方の顔を見た瞬間に何かがぶわっと頭の中を駆け抜けていく。

上半身を起こし、目を見開いて固まった俺を不審そうに見ていた土方は俺の耳元に唇を寄せた。

「……ポニーテールじゃなくて、がっかりしたか?」
「……ッ…!!…」

戦時中の小さな小屋、刀も刺さずに迷い込んで来た白い肌の少年。可愛い顔とは裏腹に妙に大人びていた。

必ず、また会えると言った。
大切な人を二度と無くしたくなかった俺はその言葉を信じて戦ったんだ。

何で忘れていたのだろう。
覚えていると言ったのに、覚えていろと言われたのに。
あの時から十年、確かに俺たちは再会していた。
あの池田屋で俺を斬りつけてきた土方は俺の大好きなポニーテールじゃ無かったけれど、それでも透き通るような白い肌は十年前に劣らない。

「ポニーテールじゃなくても、大好きだよ」
「……当たり前だ」

ぎゅっと抱きついて来る土方の顔にはシミ一つ無くて、勿論皺も無い。

「これから先、顔が皺くちゃのじーさんになっても、ずっと大好きだよ」
「……お前、もしかして」

勘のいい土方は俺が十年後の世界に行っていたと云うことに気付いたのだろう。
少しだけ身体を離して俺の着流しの裾をきゅっと握り、見上げてくるその瞳は不安に揺れている。
生と死の境目のような仕事をしているんだ。不安に決まっている。勿論俺だって不安だ。喩え十年後の世界にいってお前が生きていたとしても実際は何があるか分からないのだから。
だけど目標にはなるだろう。あんな幸せを味わってしまったら、何が何でも幸せにしてやりたいと思う。

「そんな顔すんな。大丈夫、みんな幸せそうだったよ。それに、未来なんて自分で切り開いてくもんだろ?」
「そりゃそうだ。俺が言ってるのはそんなことじゃねぇよ…俺は自分の未来に不安なんて感じちゃいない。ただ……」
「……ただ?」

「……お前は、幸せだったのかよ?」

うっすらと涙の膜が張った瞳に真っ直ぐ見つめられて、着流しを握っている手は力を入れ過ぎて白くなっている。

「心配してくれたんだ?」
「……茶化すな」
「茶化してないよ。嬉しい…俺の幸せを考えてくれて」
「………」

赤く染まった顔を俺の胸元に埋める土方の頭を撫でて、艶めく黒髪に鼻をくっ付けて土方の匂いを吸い込む。ふわっと香る石鹸の匂いに口が緩んだ。

「馬鹿だねぇ…お前が幸せだったら俺も幸せなの。分かる?」
「…分かるから、お前が幸せか聞いたんだろ……」

顔は見えないのにむっとしたのが分かった。その証拠に背中に回された腕には力が籠る。少し苦しい位の力が調度良い。

「お前は今、幸せ?」
「……ん」

「じゃあ俺も幸せ」

土方の力に負けないくらいぎゅっと抱き締めれば、「苦しい」と赤い顔を上げた土方の眉間にちゅっと口付ける。

「眉間に皺。可愛い顔が台無し」
「可愛くねぇよ……皺の出来た俺は、嫌いなのか?」

ふと十年後の土方が頭をよぎる。
今も未来でもこいつは変わってない。

「…ッ…ふふ……」
「……む、何笑ってんだよ」
「いや、十年後のお前も同じようなこと言ってたからさ」

「…十年後も、俺たちは一緒にいるのか?」

再び不安に陰る瞳に苦笑して頭を撫でればその瞳には決壊したダムの様に涙が溢れてきた。

「…ふっ…ぅ…ぐす」
「あーあ、すぐ泣くんだからなぁ…そう言えば十年後でも泣いてたっけ」
「…ひく…ぅ…じゃあ……」

「俺たちは一緒にクリスマスを祝ってたよ、俺がケーキ作ってさ。でもそれ以上のことは言わない。未来なんて、分からないから楽しいんだ。もしかしたら俺が見た未来とは違う未来が待ってるかも知れないしな。それに……」


「お前が俺に飽きない限り、俺たちはずっと一緒にいるよ。離してやんない」

「……じゃあ、離すなよ。絶対だからな。約束だぞ…」

きゅっと抱きついて顔を押し付けてくる土方に、俺は十年後枕にファブリーズ掛けられるのかと微妙な気持ちになった。
あの時みたいに気まずそうな顔をさせないように、迫り来る加齢臭には気を付けなければいけない。

「勿論…って、土方…俺の着流しに鼻水付けたろ」
「……し、知らね」

俺の着流しに着いた涙と鼻水の染みにぷいと顔を逸らした土方に苦笑してその身体を抱き締める。
室内に流れ込んだ冬の澄んだ空気に吐く息が白い。

「……さっみぃ」
「本当にな……」
「お宅のS皇子に屋根の修理代要求しとくから」
「おー…まあでも、今回ばかりはいい思いさせて貰ったからな」
「なぁに、若い銀さんがいいって言うの?」
「…関係ねぇよ。今も昔も、お前はお前だろ……」
「……土方」
「…ん。」

子供みたいに触れるだけのキスをして、偶にはこんな純情もいいかも知れないと思った。

「うぅー寒い…もうこれは人肌で温め合うしかねぇよ、うん」
「……ばか」
「…でもまぁ、とりあえず」
「…ああ」


「「メリークリスマス」」


今も昔もこれからも。

お前だけを愛してる。



end




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