「メリークリスマス」 今や定番になった祝い文句を口にして、手にしたグラスをカチンと鳴らす。ワインなんて洒落た物じゃなくて中身は日本酒だ。俺たちにはそっちの方が合っている。それに銀時手製の大きなショートケーキ。その真ん中には蝋燭が二本立っていた。 俺たちにとって天人が持ち込んだ文化なんてどうでもいいことだった。 だけどクリスマスは特別だ。 二人の関係が始まった日が一昨年の12月25日、つまりクリスマスの日だったのだ。それまでなんの変哲もない俺たちだけの、俺たちにとっての記念日だったのに、いつの間にやら国民的な記念日になっていて、まるで世界中から祝福されているような錯覚に陥る程嬉しかった。男同士というだけで周りから祝福されるような関係では無くなってしまう俺たちにとっては大切な日だった。それから俺たちは毎年この日に二人でお祝いをしようと決めたのだ。 それから俺はどんなに仕事が忙しくても、何があってもこの日だけは非番にして貰うと決めた。今日非番だって約一ヶ月間働き詰めて何とかもぎ取った非番なのだ。 「土方働き過ぎなんじゃない?」 「ああ?こん位どうってことねぇよ。それに…今日だけはどうしても休みたかったんだよ……」 「今年は覚えててくれたんだね」 「当たり前だろ、もう一生忘れねぇよ」 「一生、ね…嬉しいこと言ってくれるじゃん。あ、土方…もう直ぐ日付変わる」 二人して時計がある方に顔を向ければ時刻は23時59分、秒針は6を過ぎたところだ。あと三十秒で日付が変わる。 銀時は急いで二本の蝋燭に火を付けると部屋の灯りを消した。 カチ、カチと秒針が進む音だけが部屋に木霊する。やがでボーンと日付が変わったことを告げる音が鳴ると銀時が口を開いた。 「メリークリスマス土方、今年も一緒に居てくれてありがとう」 「……ああ」 気の利いた言葉一つも言えず、それでもこの気持ちが少しでも伝わればいいとありったけの心をこめて微笑む。 俺の不器用な笑顔でも銀時には充分に伝わったようで、蝋燭の僅かな灯りに映し出された顔はへにゃりと歪んでいた。 「消すよ?………せーの…」 ふーっと二人の息ですぐに消えてしまう二つの灯りに一抹の寂しさを感じるのは俺の我が儘だろうか。 暗闇の中そんな俺の不安を掻き消すようにちゅっ軽く唇が触れてすぐに離れた。やがてギシッと立ち上がる音がしてパチリと部屋の灯りが点る。 「やっぱたった二つじゃすぐ消えちゃうなぁ……銀さんちょっと寂しい」 「……え?」 「えっ、て………何だよ何だよ、土方君は寂しくねぇっての?ちょーショック何ですけど!」 「あ、いや……同じこと考えてたから、ちょっと…びっくりして……」 「はぁ?」 「いや、だから…その、俺も…寂しいなって、思ってた…から……って、何言わせんだ馬鹿やろー!こんちくしょーめっ!」 「……や、あの…お前、俺死んじゃうよ?あんまりやりすぎるとキュン死しちゃうよ!?」 「し、しるかボケ!」 「……土方、早くこのケーキいっぱいに立てられた蝋燭、一緒に消してぇな!二人して馬鹿みたいにふーふーしながらさぁ……爺さんになってからじゃ呼吸困難で死ぬかもしれねぇけどな」 二ヒヒっと笑う無邪気なコイツに溢れてくる熱いものを止めることは出来なかった。それは頬を伝いパタリパタリと落ちて着流しに濃い染みを作っていく。溢れる嗚咽を止める術を知らない。知っているなら誰か教えてくれ。 「………ッひっく…ぅ」 「また泣く〜……本当に泣き虫だねお前は」 「…う、うるせ…誰の…せい…ずび」 「土方が泣き虫なせいです」 「……ふ、ふぇ……」 「よしよーし、泣くな泣くな……ほら、ちゅー…」 「………んっ」 赤くなった目尻をかさついた親指が労るように撫で、顔中を辿る。やがて唇に辿り着くと何度か往復するように撫でて暖かい唇が触れた。 舌が俺の唇をなぞり、咥内に侵入する……………というところで ドオォォォォン もの凄い音と爆発。 万事屋の天井に開いた大きな穴。 ひらりと宙に舞った紙には「お幸せに。二人の愛の味方 Oより」と書かれている。 凛と張りつめた冬の空気が温かかった室内に流れこんできて、キラリと光冬の星とまん丸の満月を見たのを最後に俺は意識を飛ばした。 side土方 目を覚ますと一面の枯れ草。 茶色い野原が広がっていた。 ここはどこだ。万事屋で二人でクリスマス祝いをして、もう直ぐ舌が入ってくるってところで……とそこまで思い出して俺は赤面した。しかし、どうやらここは万事屋とは程遠いらしい。銀時も見当たらない。 何より不思議なのが、チラリと目の端に映った揺れる黒髪、そして頭皮が引っ張られる感覚。 間違いない、どうやら俺は過去に来てしまったらしい。感覚は今のままなのに、高い位置で結った黒髪と一回り小さい体、小さな手がその真実を物語っていた。 しかし、俺の過去だという訳でもないらしい。 遠くから聞こえる奇声、罵声、雄叫び。刀の混じり合う音、それに銃弾、大砲が弾ける音、そして燃え上がる戦火。間違いない、ここは戦場だ。 俺は戦争に出た記憶がない。記憶がないというか本当に出ていないのだ。ならばここは一体何処だと言うのだろうか。 「やべぇな……刀が無い上にこの体じゃどうにもならねぇ」 一人ぼやき、取り敢えず此処に居るよりはましだと、燃え上がる戦火とは逆の方向に歩き出した。 暫く歩くと小さな小屋のようなものを見つけた。ただ寝るためだけに作られたであろう小屋の周りには見事に何も無い。そうっと近づき誰も居ないか確認する。人の気配は感じられない。戦火からは大分離れている、俺は暫くの間ここで待機させて貰うことにした。 小屋の中には見事に何も無かった。 本当に小屋という表現が正しい位に剥き出しの地面、雨風が凌げるだけましと言った所か。俺はボコボコとところ所に石の浮き出た地面に腰を下ろした。 そのまま手持ち無沙汰にボーっとしているとザッザッと人の走る音が聞こえ、やがて小屋の前で止まる。思わず腰に手を遣るが刀が無いことを思い出し一人舌打ちした。 カタリと戸に手を掛ける音が聞こえ、いよいよ俺は身構えた。 「………っはぁ、はぁ…………………あんた、誰…?」 雪崩れ込むように中に入ってきた白装束の男に目を見開く。血に染まった白装束、最早どれが己の血液なのか分からぬ程に返り血を浴びてところどころ固まっている。見間違える筈が無い。 十七、八と言ったところだろうか。今より若干長い髪、煌めく瞳。赤く染まったその色は、愛しい銀色。 「ぎん…とき」 「はぁ?あんた何で俺の名前知ってんの?どこのモンだよ、綺麗な顔して刀持たずに俺と遣り合おうっての?」 「ち、違う!俺は…お前を殺そうなんて思ってねぇよ……」 「じゃあ何でこんなところに……」 「俺は……俺はお前を、知ってるんだ…」 「何なんだよあんた…」 「うるせーな!知ってるつったら知ってんだよ!おら、手当てしてやるからそれ脱げよ」 燃える瞳に獣が見える。 赤黒く固まった血に染まる白装束で唯一鮮血に染まっている腹部に顔をしかめた。相当深い傷だ、恐らく一度手当しにこの小屋に戻って来たのだろう。 「とか言ってテメェ、油断させて俺のこと殺す気じゃねぇだろうな」 「馬鹿か、そんな気がねぇこと位テメェには分かってんだろ?何だったら調べりゃいい。何も持ってねえから」 「へえ…?調べていいの?」 「あ?」 「じゃ、遠慮なく〜」 トンっと肩を押されて身体が後ろに倒れる。ゴツゴツとした石が背中に当たる感触に眉を潜めた。 「あ、わりぃ……痛かった?」 「……平気だ。それより手当をさせろ」 「ああ?俺今滅茶苦茶興奮してんだけど?」 「知るか、どけ!」 ドンッと上に乗っかった銀髪を押しやると流石に負傷しているだけあって簡単に倒れた。無理矢理服を脱がせ、腹部を露わにすると溢れる鮮血と予想以上の傷の深さに唖然とした。 コイツはこの傷でヤル気だったのか。 「馬鹿やろー……傷、深いじゃねぇか」 「こんなん大したことねぇよ。すぐ直る」 「俺のもんに勝手に傷つけてんじゃねぇよ…」 「はい?何言ってんのあんた…」 「あんたじゃねぇ…!土方だ、土方十四郎……」 「土方、十四郎…?」 「いいか、覚えとけ…今も昔もこれからも、お前は俺のモンなんだよ!勝手に傷付けるんじゃねぇ…分かったか!」 「何かよく分かんないけど…あんたが、いや、十四郎が俺のこと大好きだってのは分かった」 「………な!?」 俺は銀時のことが分かるのに、銀時は俺のことが分からない。その悔しさに溢れる涙は止まることを知らない。 「男が簡単に泣くなよ〜」 「泣いてねっ……………んっ」 「どれどれ〜……んー、確かに刀は持っちゃいねぇが…このぽっちりした小さなボタンは何ですか?爆弾のスイッチだろう、俺の息子の!」 「ちょ…やだ、やめ…んっ、んんぅっ!」 破いた着流しで傷を手当する俺の着流しの胸元に手を突っ込んだ銀時はツンと尖った果実をキュッと摘んだ。どうやら下品なのは昔も今も変わらないらしい。 「んっ、やぁ………や、やめろっつってんだろうがァァァァアア!」 「うおあ!……ちょ、十四郎君…俺怪我人なんだけど…」 「全然元気じゃねぇか!」 「うん、元気だよ…ほら」 「ひぃっ!そっちじゃねェェエ!」 固くなった息子を尻に当てられて思わず悲鳴が上がる。 「…おら!終わったぞ、そんだけ元気なら平気そうだな」 「平気だから、是非続きを……」 切羽詰まった薄汚れた顔が近づいて、ああもうこのまま流されてしまうのも有りかと目を瞑った。 しかし次の瞬間、ドォォオオンと物凄い爆音が近くで鳴り響き、口付けは寸止めに終わる。 「……ちっ、もう追いつきやがったか…」 恐らく敵が追ってきたのだろう。銀時の眉が潜められ、顔が離れると外の様子を伺うように耳を澄ませた。 「行けよ……続きはまた今度、な」 「今度何て俺にはねぇよ……」 「あるさ、必ず俺らは再会する」 「そんな自信どこから…」 「俺が再会するっつったら再会するんだよ!」 「は、はい…」 「十年後……」 「ん?」 「十年後、もし俺のこと忘れてたりしたら承知しねぇからな…」 「よく分かんないけど……忘れないよ、多分…いや、絶対」 「なら、いい」 「なあ、最後に一回ちゅうさせて…?」 「駄目だ……この唇は今のお前のもんじゃねぇからな」 そう言ってニヤリと笑ってやれば銀時は納得がいかないとでも言うように唇を尖らせた。拗ねると唇を尖らせる癖は昔も今も変わっていないんだなと思わず口元に笑みが零れる。 「なあ…今日って何月何日だ?」 「え?今日は確か、十二月……二十四、いや…日付が変わったから二十五だな」 「……ふ、くくっ…そうか…」 「何一人で笑ってんの?」 一人でゲラゲラと笑い出した俺を銀時が不思議そうに、否、気持ち悪そうに眺めている。 こんな夢みたいなことも、たまには合ってもいいかも知れない。 「銀時…」 「何だよ……」 「メリークリスマス」 「は?何だそれなんのおまじない?」 「…ふふ…………じゃあな、俺のことと今の言葉、忘れんじゃねぇぞ」 立ち上がり開きっぱなしの戸の方に歩いていく。後ろで銀時が立ち上がる気配がしたが俺は敢えて振り向かなかった。 「ちょ、待てって!」 「…………っいて!ひっぱんな!」 左右に揺れる俺の一つに結い上げた髪を掴み、引っ張られ俺は痛みに顔をしかめた。 「……なあ………実は俺、ポニーテール萌えなんだ」 耳元で囁かれたその言葉に思わず俺は目を見開き後ろを振り向いた。 「お前ばっかりずりぃだろ?…俺の言葉も覚えとけよ。忘れんじゃねぇぞ!」 ニヤリと笑いパッと離される手と解放された俺の、ポニーテール。 「………上等だ」 俺もニヤリと口元を歪め今度こそ本当にさよならをすべく、愛しい銀色に背を向けた。 大丈夫だ、寂しくなんてない。俺たちはまたいつでも会えるのだから。 ふと、白い着流しに揺れる水色の渦巻きと優しく微笑み掛ける死んだような瞳に逢いたくなった。 早く帰ろう。そしてギュッて抱きしめて貰うんだ。 耳元に唇を寄せて「…ポニーテールじゃなくて悪かったな」と言って彼奴を困らせてやろう。 小屋から一歩踏み出した途端に意識が薄れ、次に目覚めた時は天井に穴の開いた万事屋だった。 隣の銀時はまだ目覚めそうに無い。コイツはどんな夢を見ているのだろうか。 早く目を覚ませばいい。 そして早くコイツを困らせてやるんだ。 「メリークリスマス、銀時」 俺は一人微笑むと、吹き込む冬の空気にうっすらと赤く染まった頬にこっそり口付けた。 side銀時 目を覚ますとそこは万事屋の台所で何があったのか一瞬分からなかった。記憶を辿れば爆破された万事屋の屋根は綺麗で、一緒にいた筈の土方もいない。 窓から溢れる微かな月の光が今は夜だということを告げていて、俺は片手に生クリームを握ってケーキをデコレーションしている最中のようだった。何が起こっているのかよく分からない、ここは確かに万事屋の筈なのに、どこかいつもと違う。 俺はデコレーションを中止して生クリームを置いた。 「…………土方?」 「ぎ、銀時…!何でお前…ケーキは?」 うっすらと開いた寝室擬きの部屋の戸を開けて問えばビクリと揺れた背中、振り向いた土方らしき人物は気まずそうに下を向きサッと後ろに何かを隠す。 取り敢えず俺は土方も無事だったことに気付き安堵した。 「なぁーに隠したの?」 「な、何でもない!」 「どーれ、銀さんに見せようなー」 両手を後ろにした土方を抱き締めて身動きを取れないようにする。そして暴れる土方が後ろに隠し持っていた物をするりと抜き取った。 「………ファブ●ーズ?」 「…………」 「え?これファ●リーズだよね?さっき土方俺の布団……いや、枕になんか吹きかけてたよね、シュッシュッって吹きかけてたよね!?」 「…………だって」 「…ファブったのか……?」 「…………だって」 「俺の枕を………」 「だって……枕から近藤さ……いや、お父さんの臭いが……」 「…………」 「…………」 「…まじでか……嘘、俺捨てられちゃうの?枕からお父さんの臭いがする俺はいらない、ってか…ふ、ふふ……ガッデム!」 「…いや、俺は…お前の枕からお父さんの臭いがしても…一緒にいるから」 「…うん、お前ならそう言ってくれるって信じて…って、…あれ、土方…………」 「……………え?」 焦ったように顔を上げた土方を見て、ふと異変に気づく。 「…なんか、……老けた?」 「…………な…」 大して変わっちゃいないが、俺しか分からない位少しだけ伸びた髪と目元口元の小さな皺。 「……いや、十分美人さん…ってかまた違った良さがあるけどさ……あれ、銀さんのが少し若くね?……え、幻?」 「…テメェ…復讐の、つもりか?…ファブの復讐なのかゴルァ…つか、自分の顔鏡で見てから言えや…どうせ…どうせ俺だってもう三十過ぎて、そりゃ…会った頃に比べれば、老けたかも…知んねぇ、けど…」 噛み締めた唇、寄せられた眉、潤む瞳。 涙を必死に堪える顔は何にも変わっちゃいない。 てか… 「……三十代って…何?…お前まだ二十四だろ?」 「……………そんなに、……若い奴がいいなら…」 「………え?」 「……ッ、人はなぁ…誰しも歳を取るんだよ…俺は、お前が五十年後も一緒にいるって…言うから、ひっく…信じて、たのにぃ…」 「ちょ、ちょっと待った!何言ってんの今更、一緒にいるに決まってるだろ?何泣いてんの、もう…」 「……っ、く…お前が、若い時の俺がいい…みたいに言うから、だろ…ずび」 えぐえぐと涙を流す土方を抱きしめて頭を肩に当ててやるとグリグリと顔を押し付けてくる。若い時も何もお前はまだ若いだろう。そう言おうとした時、ふと後ろの柱に掛けてあるカレンダーが目に入り、その数字を見た俺は目を見開いた。 それは俺の記憶している年よりずっと後、と言うには大袈裟過ぎるかもしれないが、丁度十年後を示していた。 つまりここは、俺と土方が爆破されたあの時から十年後の世界だってことか。どうりで土方の色っぽさが増している筈だ。 「……土方、泣くなよ……ありがとな、枕からお父さんの臭いのする俺と…まだ一緒に居てくれて。またこっそりファブ●ーズしといてな?」 「…ん、…いまさら、だろ?」 「ああ、今更…だなぁ」 きゅっと抱き締めた土方の身体からは今も変わらず俺の大好きな苦い香りがして、首筋に鼻先を擦り付ければ甘い匂いがした。 十年後の世界と言うことは、俺はもう三十代も後半で、下手すりゃ四十代に片足突っ込んじゃってるんじゃねぇかってところだろう。それなのに、土方はまだ俺と一緒に居てくれて、俺はケーキを作ってて、昔も今も何にも変わっちゃいない。ただ一つ、変わったことと言えば万事屋に俺以外の生活感を感じないことだ。 「…そう言えば、手紙来たか?」 「手紙って?」 「チャイナんとこからだよ。ほら……」 そう言って手渡された一枚の葉書き。 後ろに映っている真っ白なドレスを着て長い桃色の髪を風に靡かせる綺麗な女と、隣に立つタキシード姿の栗色の髪をした青年。 そして二人の間に抱かれ、幸せそうに眠る小さな小さな赤ん坊。 「…………ッ、はは……綺麗に、なったな……神楽…」 涙が溢れてきた。 今どこに住んでいるとか、何をしているとか、そんなんどうでも良かった。 ただ、元気で暮らしていてくれればそれで良かったんだ。 この手には色々抱えすぎた。いつだって、守れるか不安だった。 はらりと落ちたもう一枚の写真には当然の様に俺たちが居る。写真に映った自分の顔は今より幾分か老けていて、それでも今と変わらずに幸せそうだった。 「…あいつらが人の親なんて、まだ信じられないよなぁ……ふふ……ほら、ココ見てみろよ」 土方が指差すところには小さくメッセージが書いてある。 “この子には、銀ちゃんをおじいちゃんって呼ばせてやるネ” 「……なぁ、おじいちゃん?」 「じゃあ、お前はおばあちゃんだな?」 クスクスと笑う顔は昔も今も全然変わってなんかいなかった。目元の皺が少し深くなった位だ。 俺はこの手に抱え込んだ大切なものを今も変わらず守れているらしい。 真選組がどうなったとか、万事屋がどうなったとか、そんなんどうでも良かった。どこで何をしてようが関係無い。そこで生きて笑っていてくれるだけでいいんだ。 「なぁ、一応聞くけど…今日って何日?」 「は?……今更忘れた何て言わせねぇからな……」 拗ねて尖らせた唇、三十過ぎた今もその仕草を可愛いと感じてしまう。 「…今日は…クリスマスだろ……俺たちの」 「……そっか…」 「何かお前、今日変だな……チャイナと総悟見て羨ましくなったか?」 「いや、全然!」 「だって……俺にはお前が居るだろ?」 今もお前が隣にいる幸せを噛みしめて、赤く染まった顔を撫でた。 「…も、お前は…早くケーキ作ってこい!…日付、変わっちまうだろ?」 照れた赤い顔でトンっと肩を押されて、俺は再び台所に向かう。 あそこに行けばきっと元の世界に戻るのだろう。 でも寂しくなんてない、俺は最高のプレゼントを貰ったのだから。 土方に会ったらまず何を言おうか。 俺は作りかけのケーキの横に置いてある十本の蝋燭に笑みを深くして、台所に足を踏み入れた。 end |