「ねえ、なんであいつ荒れてるの」 「あ、伊織!実はさ…」 起床時間のアラーム放送後、朝食前練習のためにグラウンドに来れば白竜がひたすらシュートをゴールに叩き込んでいる姿が目に入る。しかも化身も出して。呆れて近くにいた青銅に原因を聞けば「ライバル的存在だったやつが島を出た」とだけ言われた。島を出た、で1人だけ思い当たるやつがいる。アイツ、剣城のことだろうか。様子を見る限りアイツが聖帝にわざわざ呼ばれて本土に帰ったこと、知らないのだろう。もしかしたら知っていて、それで荒れているのかもしれないけど。 しかし頼れと言ったのにこの荒れよう、呆れるしかない。 「止めなくても良いの?朝であれだと1日持たないよ」 「俺たちだって止めたいのは山々だけど、ああなっちゃ俺達じゃ止められないって」 肩を竦めて口々に言うチームの奴ら。まあ、例え化身を出せたとしてもアレは中々止めることができないだろう。白竜は化身使いの中でもかなり優秀で強力だから。流石ゴッドエデンのトップでいるだけはある。見た目も神々しく、とても綺麗なドラゴン。…なんて、感心している場合ではないな。 「伊織は止められそう?」 「どうだか」 「あれ、そういえばお前って化身出せるの?」 「…まだ不安定だけど一応ね」 ここに来る前にいた養成施設で生み出した化身。あいつがいたから、聖帝の目に止まったのかもしれない。 フィールドに目を向ければ白竜はすでにシュート体制。ため息をつきながら、フィールドに脚を踏み込む。 「星の女神アストレア」 化身の名前を小さく呟く。その瞬間ぶわり、と背後に表れた女性型の化身。この感覚は何度やっても慣れないものだ。直接白竜のシュートコースには入らなかったのは、単に止められる自信がなかったから。彼の注意を引ければそれで良い。 「……何の真似だ、伊織」 彼は突然姿を現した化身に驚き、シュートを止めた。とりあえずは成功だ。後ろの方でチームのメンバーも安堵しているように見える。白竜によって蹴り上げられたボールも行き場を無くし、人工芝の上を転がった。 「そっちこそ、何をしてるのさ。朝からこんな激しい運動、それに周りの迷惑も考えなよ」 わざとらしく後ろにいるメンバーに視線を向けると白竜はそれに気が付いて息を詰まらせた。そして小さくメンバーたちに「すまない、」と謝る。 「それにしても、化身を出せるなら何故言わなかった」 「別に、言う機会も出す機会もなかっただけ」 「…それもそうか」 聖帝になるべく化身を出すな、とそれは言われていたけど私の判断に任せると言ってくれていたし問題はないはずだ。 朝食のベルが鳴って、騒がしかった朝練は解散となった。 ←|→ |