「あれは何」

着替え終わると白竜は練習場まで連れていってくれると言うので、お言葉に甘えた。しかし歩く途中で私は足を止め、小窓から見える部屋を見て絶句した。機械からかなりの破壊力を持つボールが放たれ、受け止めることの出来なかった少年は、ボールをそのまま叩きつけられていた。少年がゴーグルのようなものをしていることから、何かデータをとっているのだろう。

「ゴッドエデンでは力がないと存在する価値はない。つまりあれは化身を出す練習だ。生命の危機を感じることで化身が出ると教官は判断している」
「アホくさ。元々才能がなければ化身っていうのは出せないじゃないか」
「…それについては同意する」

意外。方針に反論したから怒鳴られるかと思った。こいつはその辺りについては理解しているらしい。
しかし…聖帝はこのことを知っているのだろうか。苛酷な練習をさせられているとしか聞いていないし、恐らく内容までは知らないのだろう。一応後で報告してみようか。

「どうかしたのか」
「別に、何でもない」
「なら良い。だがここで余所見をすれば、いつ下の奴に蹴落とされるか分からないからな」

その物言いからして、サッカーを楽しんでいるとは思えない。ゴッドエデンは余程酷い縦社会なのだろう。私のいたシード養成施設はここまで酷くはなかった。
しばらく歩くと広い練習場に着き、ベンチの近くに数人だけ人がいるのが見えた。

「教官、伊織純を連れてきました」
「ご苦労だったな。私がゴッドエデン責任者の牙山だ。期待しているぞ」
「…ええ、よろしくお願いします」

こいつか、聖帝に報告もせず勝手に行動しているという不届き者は。しかしここでは腐っても責任者、失礼なことでもしたら追い出されるか閉じ込められるかされるのは目に見えている。

「このゴッドエデンに聖帝からの推薦者が来るなんて私も誇らしい。君の能力も評価させて貰っている」

聖帝を崇拝している様子なのに何故勝手な行動をするのか。…まあ、恐らく結果を出してその聖帝に認めてもらうためだろうけど。

「早速だが、君には白竜のチームに入ってもらう」
「は」

私と同時に声を漏らしたのは隣いた白竜。いやいや、前の養成施設からデータが来ているからって何かしかテストやるだろう。ポカンとした私を見た牙山教官は「聖帝直々が推薦したのだからな」とただ一言。…どんだけ信頼されてるんだ、あの人。それともご機嫌取りに利用されているのか、私は。
白竜は不服のようで、キッと私を睨むけど教官に対しては何も言わない。言わないじゃなくて言えない、だろうけど。



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