僕には大事な人がいた。
その人は僕の幼馴染みの女の子で、自分勝手なことをした僕が村から追放されても僕を心配して危険な森に足を踏み入れてくれた。正直僕は彼女に危険な思いはしてほしくないから複雑なものだったけど、とても嬉しかった。彼女が、今の僕の支えだった。

しかしある日彼女は僕の前に姿を現さなくなった。いつかそんな日が来るとは思ったけど気になってしょうがない。
数日たって耐えられなくなった僕は森を抜け出してこっそり村を覗きに行った。村の外れに僕と同じ村の男の子がいた、僕と仲の良かった男の子は僕を見て喜んで涙を流してくれた。

「彼女がどこにいるか知ってる?」

そう聞くと彼は表情を歪ませこう言い放った。

「…あいつは、生け贄になったよ。…前回の生け贄は効果がなかった。しかも、その、八百長のせいで今回も俺たちの村から生け贄を出すことになって、しかもあいつが自ら生け贄に立候補したんだ」

その言葉を聞いて頭が真っ白になった。僕は妹を守れなかった上に大事な幼馴染みまで犠牲にしてしまった。
それ聞いて僕はその場から走り出してしまった。友人が僕の名を叫んでいた。でも僕にはどうしようもなかった。


×××


どうやら僕は死んだらしい。
無意識に死を望んだ僕は崖から飛び降りた。何も覚えていないことから即死だったのだろう。どうせなら妹の分も彼女の分も、苦しんで死ぬべきだった。
後悔しても今更遅い。
しかしそこで気がつく。何故死んだ僕に意識があるのだろう。答えは簡単だった、霊体になったからだ。島ではそういう類のものが信じられていたから驚きはしない。

それからなんとなく霊体で暮らしていたけど、時の流れは恐ろしく速くて、僕の住んでいた村も対立していた村も飢饉や流行り病で滅んだ。あの友人も流行り病で亡くなった。つまりこの島は無人島になったのだ。僕以外この土地に捕らわれている人物はいなくて、ついに僕は独りぼっちという訳。成仏するやり方も分からないし、森で動物たちと暮らすのもなかなか悪くない。理不尽な人間たちと暮らすより遙かに楽だ。
やはり死んでも心に引っ掛かるのは、妹と幼馴染みの彼女の存在だった。ここにいないということは成仏、したのかな。


×××


時はまた数百年近くたった。数百年もこの世に留まっていると何やら待遇が良くなった気がする。自然の声は聞こえるし島全体の様子がよく解る。幽霊も捨てたもんじゃないらしい。

そんなある日人間がこの島に来た。そしてしばらくすると僕でも分かる程に悪趣味で大きな建物が建ち、沢山の人間がこの島に上陸した。上陸した人間の大半は死んだ頃の僕と同じ年頃の男の子。必死に暴れる子や眠らされている子、とにかく大人に無理矢理連れてこられたんだなと一目で分かる子が多かった。
やっぱり大人は卑怯だ、連れてこられた子供たちはかわいそうだなあ、なんて呑気なことを考えていた。だって死んだ僕には関係のないことだから。そうでしょう?

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