バシッと勢いのあるボールを止める音がグラウンドに響く。いつも賑やかなサッカーグラウンド全体は、白咲の体力測定に視線が向けられていてとても静かだった。白咲の気が散らないように退かそうとしたが「平気です」と本人が言うものだから、そのまま。
測定の結果50mのタイムもPKのセーブ率もなかなかの記録。むしろPKに関しては取れないボールがないじゃないかと思うくらい。

「北厳、どう思う」
「良いと思いますよ。ちょうどキーパーの奴怪我でやめちゃいましたし、一年でも白咲なら一軍に入れても遅れはとらないと思います」
「だよねぇ。あ、雪村ちょっと今平気?」
「何ですか」
「ボール、次蹴ってきて」

なんで俺が、なんて露骨に嫌な顔をされたけど雪村はサッカー部でもキック力だけならトップレベル。ただ、性格に難有りで二軍にいるという勿体ない実力者。

「雪村のシュートをあんな軽く…」

隣にいた王鹿がポツリと呟く。前のキーパーは雪村のシュートは受けるだけで手が痺れると嘆いていたが、白咲にそんな様子もない。これは一軍入り決定だな、悔しそうな雪村を横目にそう思った。



「前のチームじゃかなり優秀だったでしょ」

休憩時間になり、白咲にタオルを手渡しながらそう言う。
白恋中サッカー部にはマネージャーがいない。だからドリンクを用意するのも洗濯も当番制。いかに私の中学生時代が恵まれていたか実感する。

「そんなこと、なかったですよ。俺なんかより強い奴は山程いましたし、それに俺には才能がありませんから」

何かを思い出すように言って苦笑する白咲。聞いちゃいけないことを聞いてしまったらしい。気まずい雰囲気が辺りに漂う。

「そういえば、あの雪村、でしたっけ。二軍って聞きましたけどとても実力がないようには見えませんでしたよ」
「あ、あぁ…雪村ね。確かに実力はあるけど性格がちょっと難しくて、仕方がなく二軍なの」
「…勿体ないですね、見たところ白恋は攻撃が足りないチームのようですし」
「ご名答、早いなぁ」
「チームを見るのは得意なんです。測定の合間にミニゲームを見ていて、そうじゃないかと」

キーパーとしての実力、チームを公平かつ正確に見る観察眼、申し分なしと来た。…才能がない、の意味は少し分からないけど彼は白恋にとって十分な戦力になるだろう。

「…白咲、いきなりで悪いけど一軍の正ゴールキーパー頼みたいの。見ての通り今の白恋にはキーパーがいないし、貴方の力を貸してほしい」
「…俺なんかで良ければ喜んで」

にこやかな白咲の返答を陰でひっそり聞いていた部員たちが「これでひやひやせずに試合ができるな!」と喜ぶ。勿論私も内心ホッとしている。
ここで不服そうにこちら見る部員に、私は気がつかない。




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