私がこの栄都学園に入学して3年目に突入した。つまりは最上級生となった訳だ。 特にすることもないが新しい担任の言葉のせいで身が引き締まった。受験も視野に入れなければならないのが最も大変なこと。この学校はお勉強だけが取り柄だから何より優秀で、有名な高校にバンバン卒業生が行っている。私たちもそれに続けと課題は山積みになるのだろう。憂鬱だ。 これまで2年間の思い出と言うならお勉強とサッカー、だろう。サッカーと言っても私は幼馴染みのせいでマネージャーをやる羽目になっただけであって運動は全く無理。まあ、とある理由があって内申はかなりアップされているから良しとしているんだけど。
「何ぶつぶつ言ってんだよ」 「噂をすれば幼馴染みの影浦くんじゃないですか」 「意味わかんね」
ふいに後ろから現れて私の隣に席ついたのは私をサッカー部に無理矢理押し込んだ張本人、正GKの影浦。こいつも興味のないサッカーをやり始めたのは内申のためだ。所詮そんなもん、栄都サッカー部なんて。
「影浦ー、引退までサッカーやるのー?」 「…なんだよ急に」 「だって今年からフィフスないよ?勝敗指示もなけりゃ内申も特別に上がるわけでもない、サッカーやる必要あるの?」 「あー…そりゃそうだなー…」
鬱陶しい髪を掻き分け頭を掻きながら影浦は俯いた。サッカーやめるのかな、影浦がやめるなら私もやめようかな。あ、でも冴渡がグチグチうるさそうだし監督もこわいなあ、どうしよう。
「まあ、やめる気はねぇよ」 「えっ意外」 「まー、なんつーか…サッカー楽しいってさ、思うようになったってことで。それとも名前はサッカー部やめたいの?」 「あー」 「辞めたいなら辞めても良いんだぜ?」 「そう言われると辞めづらいじゃん」
そのまま机に伏すと影浦の手が私の頭に乗ったと思うとそのままグリグリと撫で回される、と言うより押し付けられる。お陰で額と鼻が痛い。何をするんだと起き上がると、影浦は前髪で隠れた瞳でじっ、と私を見る。瞳は見えないはずなのに見られているとそう感じる。
「俺は、お前がいつもベンチにいてくれるから頑張れたんだけど」 「っアンタはまた…!去年もそれ言われた気がする!」 「お前が去年もその話題で唸るからいけないんだろー、結局お前、俺が好きだから辞められないんでしょ?入部当初も2年生進級時も、今も」
なっ、声を上げて椅子から立ち上がる。そんなことはないと否定してやっても良いけど図星だから、出来るわけがない。幼馴染みのよしみでも迷惑だったらマネージャーの件だって断っていたはずだ。 影浦は言葉が出ない私を見て歯を見せながら笑った。悔しい。
「俺も、毎年なんやかんやで俺に付き合ってくれる名前、好きだなー」 「は」
夏の大会が終わるまで、サッカー部で青春しようぜ!なんて叫ぶ影浦。馬鹿じゃないの、栄都は校則で男女不純恋愛禁止だよ。私が俯いてそう言えばじゃあ2人の内緒な、なんて呑気な彼は私の手を引いて教室を出た。これは部室への道だ。 まあ、内緒で青春なんて勉強疲れの酷い時には刺激的で良いかもしれない。なんて勿体振った理由をつけて自分を納得させた。
「私も、好き、だよ。影浦」 「俺も!」
廊下に誰もいなくて良かったと思いながら、私は影浦の手を握り返した。
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