「すごく辛かったよね」

ぽつりぽつりと名字の小さな口から言葉が溢れる。今まで何もかも捨ててフィフスに尽くしてきた俺を否定するような言葉に耳を塞ぎたくなった。でもその優しく心地よい声色の問いかけに耳を傾けてしまう。

「やめてくれ、俺は俺たちは帝国を去らなければいけないんだ」
「シードだから?」
「そうだ、総帥の命令でもある」

フィフスの命令で帝国サッカー部に潜入していたシードの俺たちは、雷門との一戦で割り出され、帝国を去ることが決定された。帝国サッカー部の総責任者である総帥が決めたことだ、逆らうことは許されない。

「御門くんは入学してから帝国で頑張ってきたじゃない」
「フィフスの命令だからだ」
「じゃあフィフスの命令じゃなきゃサッカーはやらなかったの?」
「そういう意味じゃない」
「御門くんが言ってるのはそういう意味よ」

そこまでズバリとそう言われて反論が出来なくなる。言葉が詰まる俺を見て名字が微笑みながら俺の手を掴み、腕の傷が細く白い指になぞられる。帝国に来てから技を取得する為に出来た傷だ。

「この腕の傷も、ほっぺの傷も、眉毛の所の傷も、御門くんが一生懸命頑張ってきた証拠でしょ?ここ、帝国学園で」
「名字、」
「ねえ、ここでもう一回やり直そう?鬼道総帥たちは私で説得してみせるから」

ただのマネージャーに何が出来るというんだ。あの鬼道総帥を説得なんて、無茶なことだ。それに何故俺の為にそこまでしてくれるんだ。お前は馬鹿じゃないのか。
そう言うと少し頬を染めて照れるように目を反らした後、俺を真っ直ぐな目線な見ながら再び小さな口が開かれる。

「野暮なこと聞かないで。私は御門くんのことが好きなの、好きだから御門くんには出ていかれた困るわ」

あ、勿論帝国サッカー部の戦力としてもキャプテン含めて4人も抜けられたら困るの。
クスリと笑って名字は部室から出ていってしまった。俺は呆気に取られたままだった。

ただ、手にはさっきまで彼女触られていた感触がじわりと残っていた。


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