「アルファ?」
「…#名前#、か」

ムゲン牢獄に送り込まれ、エルドラドの再教育を受けていたそんなある日だ。彼女と思わぬ再会をしたのは。

「久し振りねぇ」

呑気に語尾を伸ばすところは以前と変わらない。監視の目の絶えないこの場所で立ち話もなんだと彼女は私の手を引き、自分の部屋へ案内してくれた。
ここの部屋はどこも変わりはなく質素だ。最低限生活が出来るよう、部屋にあるのは机と椅子と、ベッドのみ。彼女はベッドに腰をかけ、私も誘われるがままに隣へ腰かけた。

「任務失敗したの?」
「…その通りだ」
「ふーん、今議長たちが何をしているかは知らないけど、アルファも大変ねぇ」

興味も無さそうにそんなことを言うな、説得力もない。そう思ったがこいつに言うだけ無駄なのだろう。
視線を感じて隣の#名前#を見下ろすと、私を見つめへらりへらりと緊張感もなく笑っていた。エルドラドに所属するための教育を受けていた時もそうだった。掴み所がない。それどころか何を考えているのか、何をしたいのかも分からない。

「#名前#」
「なあに、アルファ」
「お前はいつルートエージェントに戻ってくるんだ」
「んん、一生ないんじゃ、ないかなあ」

私エルドラドの敵みたいだし。
続けて放った彼女の言葉の意味が分からず、そのまま彼女を見つめる。彼女は私の視線の意味に気がついたのか、またへらりと笑い言葉を続けた。

「私、セカンドステージ・チルドレンらしいの。だからルートエージェントには戻れない。私がムゲン牢獄にいるのは、単に私をフェーダに連れていかれないように閉じ込めておくためだけ」

ガツン、と鈍器で殴られたような衝撃が頭を襲う。彼女がエルドラドの敵である、だから議長は優秀であった彼女をこんな場所に送り込んだというのか。
混乱する私を気にする様子もなく、#名前#はベッドへ寝転がる。

「お前は、どうしたいんだ」
「どうって?」
「このまま死ぬ気か」
「それも良いかもしれないね」

諦めたように笑う#名前#を見ていれなくなって、寝転んだままの彼女に覆い被さるように抱き締める。彼女は珍しく焦ったような声を漏らすが、私に退く気は全くない。

「アルファ」
「…私がこうしたかっただけだ、気にするな」
「それじゃあ、私もしたいようにするね」

そう言った#名前#は私の背中にそっと腕を回し、顔を隠すように私の肩に顔を寄せた。しばらくすると聞こえたのは#名前#の啜り泣く声。
…こいつは私が死なせない。そう決心して私は彼女を抱き締める力をこめた。



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