じわじわと肌を襲う生暖かさと外から聞こえる蝉の声。扇風機はついているけど暑い部屋の空気を循環させる為だけのそれは、ただこちらに生暖かい空気を送るだけ、涼しくない。
そして暑いと最初に根を挙げたのは木瀧の方、最初にって言ってもこの部屋には私と彼しかいないのだけど。

「我慢してよ、私の部屋クーラーないんだもん」
「それは知ってるけど暑い」
「私だって暑いよぉ」

お互い宿題を進めていた手を止めた。木瀧は額から汗が滲んでいた。私も人のことは言えないんだけれども。
それにしても木瀧の髪はボリュームがあって重そうだし暑そう。前に、夏毛にはならないのかと氷里先輩たちにからかわれていたのを思い出して、笑いそうになるけど我慢。

「そうだ、髪の毛結ってあげようか!」
「いや、やらなくて良い」
「えー、首筋出すの涼しいのに…あ、もしかして女に見られるから嫌とか?」
「うるさい!」

どうやら図星らしい。真っ赤になって叫ぶ木瀧に思わず吹き出してしまう。もう良いといじける彼は私に背を向けてしまう。お前は猫かと内心ツッコミを入れながら、髪を結うゴムに手をかけ、木瀧の肩をがしりと掴む。

「っお前、何す」
「髪の毛を縛ります!見てるだけでこっちが暑いの!」
「な、おま」

こうなれば強行突破だと、多少暴れる木瀧の髪をまとめ上げて上の方に縛り上げた。うん、こっちのが涼しそうだ。にこにこ笑って彼の縛り上げた髪を触れば、彼はまたいじけて背を向けてしまった。髪を上げたせいで見えるようになった首筋はとても涼しそう。汗がじんわり滲んで…。
ごくり、気がつけば私は木瀧のうなじにぱくりと噛みついていた。それと同時に木瀧は情けない声を出して、私から飛び退く。

「おま、お前!」
「ごめんなんか美味しそうだったから」
「ごめんで済むわけないだろ!あぁもう帰る!」
「あ」

机に広げていた課題一式を素早くまとめて、木瀧は私の部屋を飛び出ていってしまった。あちゃー、からかい過ぎたかなあ。しかしあれは木瀧の首筋がレアだったのが悪いよね。
私は木瀧が忘れていったペンケースを眺めて、くすりと笑った。



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