「え!?あの町から歩いて来てるの!?」 「はい。あの橋を渡って20分歩いたところに家があります」 「電車は?」 「いえ、今は使ってません」 貴方と一緒に歩く時間が愛しいから。 千尋ちゃんと肩を並べ、他愛もない話をしながら帰路を歩いていた。千尋ちゃんの家は学校から割と近いため、今日は遠回りすると言って私と帰ってくれたのだった。 「柚子#は好きな人いるの?」 「え、っ」 「好きな人」 「あ、はい…恥ずかしながら…」 どんな人!?と問う千尋ちゃんに私は恥ずかしくてあやふやにしか答えることが出来なかった。 「今度、写真見せてね」 「あ、小さい頃の写真なら…」 「今は?」 「今は撮ってなくて…」 ふうん、と千尋ちゃんは何かを考えるように上を向いた。千尋ちゃんは好きな人いるのかな。聞こうとした次の瞬間、千尋ちゃんがいいなあ!と大きな声を上げた。 「羨ましいなあ!」 「え、っと…?」 「私も好きな人いるんだけど、その人には彼女…か分からないけど好きな人がいるんだよね」 ふと前の自分を思い出す。乱菊さん。本当は幼なじみというだけで彼女ではなかった。同じ境遇の千尋ちゃんに、なんだか親近感を感じた。 「も、もしかしたら、彼女じゃなくて普通の関係かもしれません!」 「へ…」 「だから、諦めないでその人にちゃんとす、好きと伝えたほうがいいです!」 千尋ちゃんは驚いたように目を見開き、次にありがとう!と言って笑った。 「今度どんな人か教えるから柚子も協力してね」 「はい!」 じゃあね!と分かれ道で千尋ちゃんと別れを告げ、辺りが段々と暗くなる中、一人帰路を歩いた。ギンちゃんがこっちにいるのが当たり前な感じがしていたけれど、当たり前なんかじゃないんだ。きっとイヅルさんにだって、その他の隊長の人にだって迷惑がかかっている。それなのに、私は平然と会っていてもいいのだろうか。 「私があっちに行けばいいのでしょうか」 そしたらギンちゃんとずっといれるだろうか。だけど記憶を失うってことはギンちゃんのことも忘れてしまうし、だったら一緒にいる意味なんて。 透明に沈む いつからこんなに一人でいることが悲しいと感じるようになったのだろう。後ろを振り向いたけど、ギンちゃんの姿はなかった。 110409 |