どうしてこの子なの。どうして私じゃないの。



「え?」
「楢橋さんて、変わったよね」


ある日の昼下がり。いつものように回ってきた日誌を手にした瞬間、クラスの女の子から話しかけられた。目の前を見るとぱっちりとした目にふんわり内側に巻かれた胸まである綺麗な髪が目に入った。質問の意味が分からず目をパチパチ瞬いているとクスッと彼女は笑った。


「なんか明るくなったよ。あ、もしかしたら最近何かと笑ってるからかもしれない」


私が笑っている。私はあの日から、貴方の前で心から笑えるようになったんだ。それは言わずとも彼のおかげで。今の彼女の言葉はなんだかギンちゃんのことを誉められたような気がして嬉しかった。


「ん?これ、何?」
「あ、!」


彼女が指差すのは机の隅に書いてあった小さな落書き。動物とか可愛らしいものだったらよかったものを、そこに描かれてあったのは私が描いたギンちゃんだった。いつも授業中からかいに来るのに、今はあっちに帰ってるから普通の日々が寂しくて。無意識のうちに描いてしまったらしい。


「あ、これは、ギンちゃん」
「ギンちゃん?」
「私の幼なじみです」
「へえ…」


狐のような目のギンちゃんはいつでも笑っているように見えて好きだ。彼女はその絵を何故かまじまじと見た後に立ち上がり、ニコッと再度笑った。


「私、名前言ってなかったね。新嘗 千尋」
「にいなめ、ちひろちゃん…」
「仲良くしてね、柚子」



ギンちゃん。私にも友達が出来ました。こんな私だけど優しく接することが出来るかな。最近笑ってるね、と言われました。きっとギンちゃんが隣にいてくれるから。だけど最近ギンちゃんが居ないから学校も何もかもつまらないです。ギンちゃん、我儘だって分かってます。だけど、早く帰ってきて。




今夜も君のゆめばかり



だけど、夢の中の貴方は触れると消えていってしまう。いつかそんな日が訪れると訴えているみたいで。



110409


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