死神は人間になれないけど、人間は死神になれる。だから彼女と一緒にいるのが少し怖くなるときがある。 「また柚子さんのところへ?」 「せや」 「そんなんじゃ、いつか現世禁止令が出ますよ」 「なんやて!?」 「いや、ジョークです…」 筆を止め、イヅル?と笑って彼を見ればすみませんと詫びた後にククク、と笑った。久しぶりの勤務。数日前のことなのにこの雰囲気が遥か昔のようにも思える。 「ん?」 「いえ、隊長は本当柚子さんが好きなんですね」 「せや。そりゃもう」 「今の隊長は前に比べて、温かいです。きっと、柚子さんに出会って変わったのでしょうね」 「そうやな」 だけど、とイヅルが続ける。筆に墨を付けすぎたのか、報告書に書いていた字がじわりと滲んだ。 「柚子さんがこちらの世界に行きたいって言い出したら、隊長はどうするんですか?」 「…どうもせえへん」 「…そうですか」 本当の優しさとは何なのでしょう。隊長、隊長だけは真実を見誤らないでくださいね。 イヅルはその二言だけ言って黙り込み、仕事を続けた。報告書の字は先ほどよりも随分広がっていた。――筆を動かすことも出来ないくらい、動揺していた。まさに、ボクが考えていたことだったから。さすがボクの部下というかなんというか。 「イヅルのせいでもう一枚書かなあかん」 「え、何か言いました?」 「なんも」 これが終わったらボクは此処を抜けて現世へと向かうだろう。もし、彼女が泣いていたら。困っていたら。そう考えると居ても立ってもいられないのだ。これだけはどうしようもない“真実”なのだから。 この小指の繋がる先 僕と君の間には“死”という見えない壁がある。それは見えないけれど、とても冷たくて悲しい。いつか、その壁を越えるときがくるのだろうか。それは、別れなのか、出会いなのか。ボクにはまだ分からない。 110327 |