がくん、と世界が揺れたと思ったら、うとうとしていたらしく私は目を少し強く擦って教壇に立つ先生と黒板に書かれた図と計算式を見た。しばらくするとふわっと身体が浮いたような心地になり、気付けば私は目を瞑ってまた眠りへと落ちていく。 「柚子、寝とるん?」 「っ、!」 その声にビクッと身体が反応し、窓際をそっと見るとギンちゃんが全開になった窓の向こうに立って此方を見て笑っていた。 今日は、よく晴れて空がきれいな日。 「…」 「しゃあない子やなあ。まあ居眠りしてるとこは可愛かったわ」 「…」 「なあ“じゅぎょー”はまだ終わらんの?はよ終わらせてやー!ボクいつイヅルに引き戻されるか分からない恐怖に怯えっぱなしなんやで!なあ柚子ー!」 ハァ、と小さく溜め息を吐き、手に取ったペンでノートに一言書いて、コソッとギンちゃんに見せた。 『待てないギンちゃんきらい』 「…え、いや、冗談やって!待てないわけないやろ!待ちますわ!柚子は一生懸命頑張っとんのにボク何言うとんやろ…!ごめんな…!やから嫌いにならんといてえ!!」 「…」 逆効果だった。もう一度溜め息を吐き、先ほどノートに書いた文字を消して新しく書いて再びギンちゃんに見せ、私はすぐに俯いた。しばらくして顔をあげるとそこにギンちゃんの姿はもうなくなってただ青い空があるだけだった。 よかった。私は、火照った両頬を手で抑え、集中出来ない数学の授業の終わりのチャイムを待つ。 『うそだよ。ギンちゃん、好き』 無音のラブソング 手を繋いで一緒に帰る。私の一番好きな時間までもう少し。 110115 |