千尋の刀の刃の部分を素手で握り止めた手からはポタポタと刃を伝って下に次々に血液が落ちていく。意識を失っている人間の――――女の子の顔に。


「千尋、やりすぎや」
「ギン…!!」

千尋はわなわなと震えてボクの身体を力一杯に押した。ボクは彼女達の一歩離れたところに立ち彼女が此方を見上げるのを待った。


「なん、で…なんで、止めるのよ…っ」
「…」
「こんな子、もうギンに必要ないじゃないっ!!私殺すつもりはないって言ったわよね!?それに貴方が言ったのよ!この子の記憶を消して欲しいって!そう言ったじゃない…どうして、止めるのよ…っ」
「千尋…ごめん」


千尋は唇を強く噛み締め本当に悔しいと訴えるように謝り続けるボクを睨んだ。しかし刀を持つ手には既に力は入っていないように見えた。人間に跨がっていた彼女は刀を納めることもせず、ゆっくりと力無く立ち上がりボクとのすれ違い様、呟くように口を開いた。



「…忘れたいなんて、微塵も思ってなかったくせに。私を利用して何がしたかったのよ」
「千尋」
「…嫌い…ギンも、この子も、…大っ嫌い…!」



千尋はそう言い捨て一度此方を睨んだ後に瞬歩で一瞬にしてボク達の目の前から消えた。その瞳に浮かんでいたもの。グッと拳を握りしめその場に立ち尽くした。少し間を置いた後に踵を返し、廊下にぐったりと横たわった人間へと近付いてまじまじとその様子を窺う。どうやら頭を打って気を失っているらしい。あまり揺らさないようにそっと抱き上げたつもりだったがやはり身体に響いたのか彼女は顔を歪めた。伝わる温かさにほっと心が落ち着いた気がした。




「…柚子、酷い思いさせてごめんな」



真相を話すことと、虚偽を貫くこと。どちらが彼女にとって幸せだろうか。死神のボクがこのまま人間である彼女の傍にいていいのだろうか。答えはいつも、分からないまま。




どうか彼女によい夢を




ただ、ボクは血液が垂れ落ちてしまっている彼女の頬に唇を寄せた。




120812


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -