千尋ちゃんが、死神だったなんて。




「新嘗千尋殿は二番隊…現世でいう警察の組織に似ている隊の一番上の部隊長だ。まさか人間に紛れて市丸隊長を捕まえようとしていたとは」
「ざ、いにん?」
「!まさか、知らなかったのか?死神と人間が愛し合うのは、禁忌かつ重罪なのだ」
「う、そ…重罪って、そ、んな…」
「知らないとすれば、あのとき楢橋が生身の人間のまま尸魂界にいたのは、市丸隊長の意思で連れて行ったのだな」
「そ、れも重罪ですか?」
「重罪とまではいかぬが、はっきり言えば罪に当たる」
「そんな…、」



ギンちゃんがそんな重罪を犯してまで私を助けてくれたり、好きになってくれたのに、私はギンちゃんの事情のことをこれっぽっちも考えたことはなかったし、彼のことを何も分かっていなかった。自分がこんなに彼に守られてるなんて、自分がこんなに無知で愚かな存在だったなんて、今の今まで知らなかった。


「今市丸隊長のもとへ行けば、市丸隊長にどんな罪が着せられるか分からぬ。それでも、会いたいのか?」
「…私は、」








「は?」
「やから、千尋の刀で柚子の記憶を消して欲しい言うとんやって」
「…あんた、正気なの?あんだけ柚子のこと好きだって言ってたくせに、結局?」
「千尋も知っとるやろ?ボクは都合のいい奴やってこと」



ようやく堅苦しい檻から釈放されたボクは千尋にそう頼み込んだ。あれまで柚子の悪口ばかり言っていた千尋が、今度は悲しそうな顔をするから何だか少し笑えた。


誰もいない廊下で千尋は刀を抜き、ボクと見合った。千尋だってボクが手に入る機会かもしれないのに、その目は不安を隠しきれていない。


「柚子はまだあんたを信じてるかもしれないのに、どこまで卑怯な男なのかしら」
「自分の幸せを願ってんのに、何が悪いん?」
「…やっぱり最低だわ、あんた」



千尋は小走りでボクに近付き、脇腹辺りに刀を突き刺した。ありがたいことに痛みはない。千尋はゆっくり刀を抜き、不安そうな顔でボクを見上げ、そんな彼女にボクは笑いかけた。



「…忘れた?」
「…何を?」
「っ…」



名前も顔も分からない。さっきまで記憶にあった“それ”は切り抜かれて白く塗りつぶされているようで、全く思い出せなくなった。きっと何日もすれば、この白く塗りつぶされた記憶さえ、消えていくのだろうか。



「…千尋、お願いがあるんやけど」
「え、また?」




「千尋にしか出来んお願いや。よろしゅう頼むわ」




それは、一か八かの賭だった。それを知らない千尋はボクのお願いを聞いて頷きもせず、ただ放心したように立ち尽くすだけだった。




紺色のなかを泳ぐ




「もし、次その子に会ったら、その子も刺してボクのこと忘れさしてな」




残酷か、否か。



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