怖かった。君が死ぬんじゃないかって考えたら。悔しかった。ボクのせいで君が傷つけられたことが。だけど何より嬉しかった。君がただ、僕の腕の中で静かに呼吸をすることが。



「え…ええ!?」
「なんやそんな驚かんでもええやん」
「驚きますよ!人間を瀞霊挺に連れてくるなんて!」
「傷を負っとるのはボクのせいやから、治療せなあかんのは当たり前やろ」
「はぁ…その方は今何処に?」
「ボクの部屋で寝てはる」


イヅルは唖然としたままボクを見た。先日のことは、きっと一生忘れられない。胸があんな風に苦しくなったのも、ほっとしたのも、名前を未だに知らないあの子が初めてだったから。執務室から出て廊下を歩くと、一歩後ろにイヅルが続く。


「総隊長にバレたらと思うと…うっ…胃が…」
「大丈夫や。バレてもボクが誤魔化したる!」
「…なんかそれ以前にも違う場面で聞いたんですが。でも結局は隊長、ボクに反省文回してきましたよね?」
「本当愛らしい子なんやけど、イヅル惚れたらあかんよ!」


イヅルは恨めしそうな表情を浮かべてボクを見た後に、本日何度目か分からない溜め息を吐いた。


「なんでそんなに嬉しそうなんですか」
「だって……」
「…隊長?」
「…なんでやろうな。分からんけど、嬉しい」


何故こんなに胸がドキドキしているんだろう。ただ君に会いに行くだけなのに。そう考えただけで頬がほんのり熱くなって、こんなに簡単に頬が緩む。


「とりあえずイヅルが彼女に惚れたらボク神鎗でイヅルを射殺す覚悟やさかい」
「隊長、冗談に聞こえないのでやめてください。それにそう簡単に惚れません」
「そう。せやったら、襖開けてみ」


ボクの自室の前に来て立ち止まり、失礼します、と言ってイヅルはボクの隣でゆっくり音を立てることもなく、そっと襖を開けて隙間から彼女を見る。ああ、イヅルが彼女に惚れるなんてことがあったらボクはどうすればいいのだろう。それに彼女も、虚から自分を守ったのがボクじゃなくてイヅルだと勘違いしたら。そうなったらイヅルを射殺してボクも死ぬ覚悟…と言いたいのは山々だが彼女と接しないで死ぬのもあんまりだから、やっぱり死ぬのはイヅルだけやね。ん?イヅルどないしたん、そんな青い顔して。大丈夫。悪い冗談や。可愛い、しかも仕事の出来るときた部下を殺すわけないやろ。あ、でも可愛い彼女と天秤にかけるとしたらやっぱりイヅルがドボンやけど、ってだから悪い冗談だ…え?今なんて?


「い、いませんよ…そんな方…」


スパン!と襖を勢いよく開けると、目の前にあったのは寝具だけで肝心の彼女の姿はない。サァ、と青ざめるのは今回はイヅルの顔だけではないようだ。


「イヅルすまんな…早くせんとまた総隊長はんに反省文や…」
「いや、だからボクじゃなくて隊長でしょう!?とりあえず三番隊総力を上げて探させます!」
「ど、何処にいったんや!あの子ォ!!」



揺れる、心臓、



君に出会ってから、ボクは苦しくなったり嬉しくなったり不安になったり忙しい。だけどこういうのを幸せと呼ぶんじゃないだろうか。



100305
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