本当に大好きだったの。誰よりも、何よりも。



「楢橋さん、これ面倒だから、やっておいてくれないかな?」
「は、はい」


色々な声が混ざり合ってざわつく教室。高校に入って、まだ名前すらも覚えられていないクラスメイトから、久しぶりに話しかけられて心臓がばくばく鳴っている。そう言われて机上に置かれたのは日誌。書くのは初めてじゃない。特に何もやることがない、断る理由のない私には、日誌が皆からよく回ってきた。だって本当にやることがない。私はいつだって独りぼっちだから。私の世界はあの日から灰色になって、止まったまま。



「柚子、泣かんといて」



「き、ょう、も、た、のし、かった、です。と」



独りが楽しかったはずなんてないのに、また一つ嘘を吐いてしまった。だけど楽しかったって言わないと、明日が来るのが悲しくなる。握っていたシャーペンを離し、パタン、と日誌を閉じて教室を見渡せば茜色の夕日が、私しかいない教室を照らしていた。あなたが生きていたら、この夕日を見て何て言うんだろう。
(泣いてない、泣いてない)


机に腕を置いて、そこに顔を伏せた。胸が痛い、呼吸が苦しい。もし今も、あなたが私の傍にいてくれたら、頑張ったなって私の頭を撫でてくれたかもしれないのに。ボクがおるから心配せんでええよって、笑ってくれたかもしれないのに。なんであなたはいないのでしょう。ああ、そっか。だって、私があなたを、



「ごめんなさい、ギンちゃん」



ぎゅ、っと目を瞑る。そこは暗く、光は入ってこない。真っ暗。ギンちゃん。あなたは今、何処にいますか?何を想っていますか?



君を映す花は遠く



願わくば、あなたが今いる場所が、こんな暗い世界ではありませんように。



100205
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