ミンミンと忙しく蝉が鳴く季節だった。お気に入りだった小さな造花のついた帽子を深く被り、幼馴染みのギンちゃんに手を引かれ、私は公園に遊びに来ていた。 「ギンちゃん、暑いよう」 「ほんなら、日影で休もうか」 ギンちゃんちの家は転勤ばかりだったらしく、遠いところから来たせいか独特の話し方だった。だけど私はギンちゃんの話し方が好きだった。私を呼んでくれるギンちゃんの声も好きだった。でも、一番ギンちゃんが好きだった。 「柚子は将来何になるん?」 「しょうらい?」 「大きくなったら、って意味や」 「うんとね、」 ベンチに腰掛けた後、隣に座ったギンちゃんがそう問いて来たのを覚えている。だけど次の瞬間の出来事が大きすぎて、何て答えたかは忘れてしまった。 「あ、」 ふわりと私が被っていた帽子が風に乗り、人気のない道路へと飛んで行ったのを直ぐ様追いかけると、背後から聞いたことのない怒鳴り声のような声が私の名前を叫び、次の瞬間、ドンッ!という衝撃と共に私は目を閉じた。 「ギンちゃん!!ギンちゃん!!」 次に目を開けたとき、ギンちゃんは大きなトラックにひかれ、血まみれになっていた。傍に近付いて名前を何度も呼ぶとギンちゃんも何か小さく呟いていた。耳をギンちゃんの口の近くに持って行くと、一部しか聞こえなかったが、ギンちゃんは本当に小さい声で、涙を流しながら、確かにこう言ったのだ。 「柚子、が、死…、よか、…」 そうしてギンちゃんはピクリとも動かなくなり、私も呆然とし、まるで石になったかのように、その場から動けなくなった。 私が、私がギンちゃんを殺したんだ。 「だ、やだ、っちゃ、ん、ギンちゃああん、っ!」 初恋、残像、君の声 私の知らないことをもっと教えて欲しかった。一緒にやりたい遊びももっとたくさんあった。ずっと一緒にいて欲しかった。伝えたいことだって山ほどあったのに、あの日、あの一瞬で貴方とさよならだったんだ。 101229 |