私はギンちゃんを誰よりも好きな自信があるよ。誰よりも一緒にいたいと願ってたよ。だけど貴方がいないのなら意味がない。何もかも。




「市丸隊長の過去を知っているだと…?」
「…ギンちゃんと私は幼馴染みだったんです。だけど、ギンちゃんは死んじゃって、私は一人になって、」
「…何故…市丸隊長は死んだのだ」
「…私が、――――」
「そんな、」


膝を抱えて座り込み、俯いた。その唐突な言葉に、隣で背中を擦っていた朽木さんの手が一瞬止まる。自分のせいで、大切な人が―――。あの日のあの時の記憶が一瞬、蘇る。何度も何度も自分を責めた。誰も知らない私の気持ち。


「私にはギンちゃんを好きになる資格なんてないんです。当たり前です、よね。…だけど、ギン、ちゃんが、あの人に好きって、言ってて、悲しかった、っ、」
「楢橋…」
「言えない、です、私は…今は、彼の幸せを願わなければ、いけないのに、」
「楢橋、もうよい」
「くち、」



「忘れろ。…全て、お前の夢だったのだ」



スッと伸ばされた手で視界が塞がれ、離された瞬間、私の目の前で何かが弾け、私はそのまま意識を失った。


「すまぬ、楢橋…」



何が起こったのか分からない。ただ、分かるのは朽木さんの声が悲しそうだったということだけ。





「こんにちは、朽木さん」
「楢橋。先日ぶり、だな」
「先日は迷子になったところを助けてもらって、ありがとうございます」
「…いや、いいんだ。それより、市丸ギン、という者を知っているか?」
「…市丸、ギン」
「……」



数日後、学校で会った楢橋は市丸隊長のことを一つ残らず、忘れていた。それもそうだろう。記換神機で記憶を入れ替え、市丸隊長の記憶を消したのだから


堪えられなかった。楢橋の言っていたことが本当ならそのことを彼女が背負っていく必要はないと思ったから。大切な人を失う悲しみを私は知っていたから。




「…何処のクラスの人ですか?」



ふわりと笑いながら楢橋がそう言って、胸が痛くなった。



君は一体何を見て泣くの、




そして独り、自分に問う。私の行動は本当に正しかったのだろうか、と。本当に彼女はこの先ずっと笑って生きていけるのだろうか、と



100819
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