「はあ!?現世であんたの過去を知ってる子に会ったあ!?しかも連れてきたですってえ!?」
「反省文ンン!!!静かにしいや乱菊!!」


ひらひらと手を振って曖昧な返事をする幼馴染みに生きてきた中で今初めて腹が立った。仕事で三番隊の隊舎に書類を渡しに来た乱菊と外に出て少し話をしていたのは、柚子のこと。


「その子も可哀想だわ」
「なんで?」
「ギンのこと、その子は知ってるのにギンは知らないんでしょ?」
「まあ、なぁ」
「…一人で想うってことほど、悲しいことってないわよ」


何処かで聞いたことのあるセリフだ。一体何処だっただろう。よく思い出せない。だって頭の中は彼女のことでいっぱいで、そんなことを乱菊に言われないと気付かなかった自分が悔しくて。気付かないうちにムッとした表情をしていたのか、乱菊がボクを見て笑った。


「あんたはその子が本当に好きなのね」


「好きや」


「だったらずっと傍にいてあげればいいじゃない」
「死神が人間の子の傍におるなんて不吉やわ」
「関係ないって自分が一番分かってるくせに」
「…それに、柚子はボクのこと、そんな風に想っとらんよ」
「女を甘く見ないことね、ギン。ほら、早く戻ってあげて」


そう乱菊が言ってボクの背中を押した後に、一瞬だけイヅルの霊圧が乱れた。乱菊と別れて瞬歩でイヅルのもとへ向かうとイヅルは柚子の部屋で刀を握ったまま、ただ呆然と立っている。


「柚子は?」
「あちらの世界へ帰りました」
「…なんやて?」
「柚子さんが隊長にありがとう、と伝えてくださいと」
「柚子!」


急いで刀を抜こうとすると、イヅルは静かに神鎗に手を伸ばし、解錠を止めた。


「もういいでしょう」
「…なんやて?」
「隊長、もう柚子さんを追うのは止めましょう」
「そんなん、ボクの勝手や!」
「…それが、柚子さんを傷付けるだけだということに、まだ気付きませんか」
「っ!」
「隊長は死神。柚子さんは人間。どう足掻いても一緒にいて許されることはありません。それが許される、ということは、それは柚子さんを殺すという意味ですよ!!」


『殺す』という意味。沈黙の中、イヅルは我に返り「すみません」と小さく言って神鎗を掴んでいた右手をゆっくり離した。


柚子が、いなくなった。一緒におるって約束したのに。守ろうって決めたのに。彼女はいなくなってしまった。


「…柚子」


今の僕にはただ呆然と壁に向かって立って、いなくなった君の名前を呼ぶことしか出来ない。


さよなら、大切な人。君がいつも悲しい顔をする理由さえ聞けなくてごめんな。君との過去を思い出せなくてごめんな。代わりに君との今を、未来を作ろうなんて考えてごめんな。好きになってごめんな。全部、ごめん。


「ごめん、な、柚子」



悲しいハッピーエンド




何を夢見ていたんだろう。一緒にいることなんて始めから許されることではないと知っていたのに。知っていたのに、瞳からは透明の滴が足元に静かに落ちていった。



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