ボクは君のことを知らないのに、君はボクのことを知っている。だから君との過去を知りたいと思うのに、聞こうとすると君は必ず悲しそうな顔をするのに気付いていた。だからボクも悲しくて、結局聞けないまま。まさか、そのことで君が今まで悩み続けていたなんてボクは知らずに。 「今からボクんとこの副隊長呼ぶさかい、後ろに隠れとき」 「分かりました」 「イヅル」 0コンマ数秒後。瞬歩でボクの目の前に現れたイヅルの顔はまだ少し青い。クッと笑いをこらえていると、イヅルは慌てた様子でボクに話しかけた。 「た、隊長!見つかったんですか!」 「見つかったで、…随分前に」 「な!何で教えてくださらないんですか!ボクは死にもの狂いで探していたというのに、って何笑ってるんですか!」 「い、イヅルが必死やから…クッ」 笑わないでください!と泣きそうになりながらイヅルは笑うボクの胸倉を掴み軽く揺すった。 「柚子、この子がイヅルや」 ぎゅっとボクの羽織を握ったまま、背後からひょこっと小さく顔を覗かせた柚子は林檎のように赤くほっぺを染めて、小さな声で恥ずかしそうにイヅルに挨拶をすると、イヅルはボクの着物を掴んでいた手を静かに離して柚子に軽く会釈した。横目でイヅルを見ると、何故か彼も少し赤くなっているからボクは神鎗に触れてカチャッと音を立てるとイヅルはハッと気付いたようにボクを見てまたサァっと青くなった。 「しばらく柚子をボクんとこに置いとくで」 「ええ!そんな…」 「ええやろ、イヅル」 イヅルは、うっと詰まったような表情をさせて柚子をちらっと見た後にうつむきながら深い溜め息を吐いた。 「ボクはもう知りませんよ、どうなっても」 「ええよ」 「バレて反省文になっても自分で書いてくださいよ」 「…うん」 不本意ながら頷くと、くいっと柚子が袖を引っ張った。振り返ると少し泣きそうな顔で僕を見ている。 「ギンちゃん」 「ん?」 「ずっと、一緒にいてくれますか?」 「うん。今度はずっとおれるよ」 そう言って前髪がかかった額に軽くキスをすると柚子は頬を赤く染めながらも、嬉しそうにふわりと笑った。漂うのは甘い、甘い匂い。 そっと触れてふわりと笑って 君が傍にいるなら、何も要らないし、何も怖くない。ボクが酷く恐れているのは、君を密かに想うボクの気持ちがいつか君を傷付けてしまうんじゃないかということだけ。 100324 |