久しぶりに丸一日休みになり、朝から誰とも会わず鍛練や自習をする気にもなれず自室でごろごろと怠惰に過ごしていれば、そういえば借りたままの本があったと謂うことを思い出した。
 左近が薦めてくれた兵法の本だったのだけれど、実習や学園長の思い付きの御蔭で(せいで?)委員会が忙しくなかなか読めなかった。
 委員会が忙しいと謂うのは凄く珍しいことで、三郎先輩と勘ちゃん先輩がぐちぐちと学園長に文句を垂れていた。(勿論学園長が居ないところで。)
 学園長の思い付きにはちゃんと意味が有るとろ組の担任の先生やい組の担任野村先生も言っておられたし、何かしらの収穫はあったのだろう。少なくとも僕には無かったが。

「本読もっかなぁ。」

 いい加減天井の染みの数を数えるのにも飽きてきたし、二度寝するにもぐっすりと寝たし睡魔は呼び掛けに無視してくるから眠れない。
 宿題も終わったしシロの部屋にも行く気にはなれないからゆっくり本を読んでお昼まで時間を潰そう。
 お昼になればお腹も空くだろうし、何かしらやる気が起こるかもしれない。
 今朝は珍しく目が冴えた御蔭か一人で朝食を摂ったし、このまま順調にいけばお昼も多分一人だろう。たまには一人で過ごすのもいいかもしれないよね、うん。
 そうと決まれば行動は早いもので、 引き出しに閉まっていた左近お薦めの兵法の本を取りだし机の上に置き、以前買っていた煎餅を菓子入れから出せば準備完了。
 多少行儀が悪いかもしれないが汚さなければ大丈夫でしょ。
 座布団の上に腰を下ろし正座をして本の表紙を捲れば、ずらりと並んだ文字に口許が緩む。
 本を読むのは好きだし、少し目を通してもわかるくらいにこの本は面白い。
 ぺらりぺらりと項を捲っていけばいくほど引き込まれる内容に、折角出した煎餅に手をつけることも忘れ、ついつい夢中になってしまった。

「ああ、こういう考え方もあったんだ。」

 今までとは違う視点だからこそわかることや、埋もれな考えや、あっと驚くような策は迚も勉強になって、あっという間に読み終わってしまった。

「流石左近、面白い本を見つけてくれるなぁ。」

 パタリと本を閉じて背伸びをすれば、ぽきぽきっ、と骨の鳴る音が室内に響いた。
 座っているのはいえ、長時間同じ体制で居ると謂うのは割りとキツいものだと改めて理解した。
 僅かに痺れた足を伸ばし痺れが引くのを待ちながら煎餅をぼりぼりと口に含んでいれば、お昼を知らせる鐘の音と、ヘムヘムの声が聞こえた。

「そろそろ行こうかな。」

 ゆっくりと立ち上がり煎餅の粕を屑箱に入れて障子に手を掛けると同時に、慣れた気配を感じた。

「陽介ー、お昼一緒に行こう?」
「シロ…。」
「ん?」

 すっと開いた障子の向こうにはシロが何時ものようにほわほわとした空気を漂わせながら一人、ぽつりと立っていた。
 僕が呟いた言葉に首を傾げるシロが何だか可笑しくてつい小さく笑ってしまうと、シロは更に困惑したように首を傾げた。

「…なんでもないよ、」
「そっか。」

 ふにゃりと笑うシロに笑い返して、思ったままの言葉を紡ぐ。

「次は三郎次?」
「うん。左近と久作は図書室に居るらしいから。」
「そっか、じゃあ本も返そうかな。」
「何か借りてたの?」
「左近お薦めの兵法の本をね。」

 一旦部屋に戻り机の上に置かれた本を手に取れば入り口で待っているシロに向かって表紙を見せる。
 シロは興味深そうに表紙を見詰めれば、「今度借りてみようかな、」と小さく呟いていた。

「よし、三郎次を迎えに行こうか。」
「そうだね。」

 極々自然に、当たり前の様に繋がれた手に口許が緩むのを抑えられない。
 珍しくシロもにこにこと笑っていて、なんだ結局何時ものメンバーなのか、と思いつつも、やっぱり皆が大好きだと思った。




結局は、
みんな一緒が一番らしい


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