「ええ!?それ本当に!?」
「しぃーっ!」

口元に指を立て「静かに!」示すのは二年い組川西左近。真ん丸い栗色の瞳を目一杯に広げるのは東陽介。その瞳には驚愕が浮かんでいたが、徐々にきらきらと興奮も混ざった瞳になり、左近はきゅっと表情を引き締めた。

「うん。…だから、確かめに行かない?」
「今、から?」

髪と同じ栗色の瞳をぱちぱちと瞬かせながら首を傾げる陽介に肯定の意を示し、ぐっと肩を寄せこそこそと話す。

「陽介は気にならないのか?」
「気になるかならないかって言われたら気になるかけど…。」
「なら行こうよ。」
「でも、見つかったら怒られるんじゃない?」
「大丈夫。今日はぼくと陽介しかここら辺には居ない。」
「…んー。」
「な?」

左近の押しに負けたように、陽介は緩く笑って頷いた。好奇心には勝てない年頃なのだ。

「でもさ、幽霊だったらどうしよう。」

伏し目がちに左近へ視線を遣る陽介に左近は、ははっと小さく笑った。
陽介と謂う少年は左近たちのようにツンデレと謂う訳でもなく、比較的温厚な少年ではあるが、同時に怖がりな少年でもあった。
一年ろ組の下坂部平太程怖がりという訳では無いが、深夜の厠には行きたがらないし、夜道だってあまり好きではない。
妖怪は別に嫌いではない。
妖怪は人間の心と云うし、一年は組の実技担当山田の女装を見ていれば、妖怪なんて怖くない。寧ろ可愛く見える。(勿論山田本人の前でこんな事は言えないが。)
唯、幽霊と云うのは非科学的であり存在が曖昧。実体が見えない上に妖怪よりも情や念が強いと何時か読んだ書物に記載されているのを見た以来、幽霊等にはめっきり弱くなってしまったのだ。
勤勉が引き起こした悲劇である。

「大丈夫だよ。もし幽霊でも今は昼間だ、何も起きやしないさ。」
「…でも、」

尚も食い下がる陽介に左近はにっこりと安心させるように笑みを作り、自身と変わらない大きさの手をぎゅうっと握った。

「もし何かあったら保健委員会特性の薬を投げ付けてやるさ。」
「…え、あ、うん。」

何やら怪しい液体の入った注射器を持ちにっこりと笑う左近に陽介は頬を引くつかせながら頷いた。
あの液体は以前三郎次と久作が喧嘩をした際無理矢理落ち着かせるために使われた物だと陽介は瞬時に理解した。
あの時の光景を思い出すとさぁと血の気が引く気がしてならない。あんな液体を喰らったら幾ら幽霊だろうと危ない気がする。触れない云々の前にあの液体が危ない。お願いだから出て来ないで幽霊さん。貴方の身が危ないです。序でにぼくはあんな惨劇を再び見たくはありません。
以上、陽介の切実な願いである。

「よし、行こう。」

陽介の手を握り竹藪の中に進む左近を見ながら、陽介はこっそりと懐の苦無を確認した。
好奇心が恐怖心に勝ろうとも、警戒心だけは緩めてはならない。
何時如何なるバヤイも自分の身を守れるようにしていなければ忍になど到底成れる訳がないのだ。
成る可く音をたてないように竹藪の中を進めば、何処からか聞こえる声に左近と陽介は足を止めた。

「……、」

緊張したように左近と繋がる手に力を込めた。
息を潜め、ゆっくりと歩を進めれば、其処には自身たちが通う学園の責任者である学園長が一人、何やら忙しなく動いていた。

「(何しているのかな?)」
「(…、わからない。)」

習ったばかりの矢羽音を使い言葉を交わせば、もう少し視界が開けるように足を二歩前に進めた。
視界が開け、学園長の姿がはっきりと見える位置まで移動すれば、映った光景に陽介は目を丸く見開き驚いたように口を小さく開け、左近は一瞬目を見開くも呆れたように小さく溜め息を吐いた。

「……帰ろうか。」
「…うん。」

拍子抜け、と言わんばかりのオーラを撒き散らしながら左近は陽介に声を掛けた。
陽介は小さく苦笑いしながらも頷き、足音を発てないようにゆっくりと体の向きを変え、二人仲良くその場を去ったのであった。



時間の無駄?
学園長のダイエットなんて興味無いよ


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