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「兄様、どうしてこんな所にっ、危険だわ! ここには……ここには!」
「落ち着いて、イリス。ここには、なんだい?」
優しげに微笑む兄様に、私は堪らず駆け寄った。その腕を掴んで、私は兄様を見上げる。
「とにかく今、ここは危険なの! 早く逃げて!!」
「逃げるって……どこへ?」
「教会に戻れば……!」
「ふふ。イリス。可笑しいね」
兄様は笑っている。
私の体は突然後ろに引かれた。フレイムさんだとすぐに解った。
私のいた場所には、数本のクナイが突き刺さっている。
兄様が危ない、私は慌てて兄様の方を見上げた。

兄様の前には、4人が立っていた。

サラマンダーさん、エントさん、フェンリルさん、ジンさん。
4人は私たちを見ている。
「兄様!!」
「イリス、待て」
フレイムさんの制止の言葉とほぼ同時に、兄様がすっと前へ出た。4人は道を開け、そして――兄様に、跪いた。
「よく来たね、イリス。ここが終着駅だ」
「にいさ、ま、……まさか――」
すう、と、瞳の色が変わっていく。
夜明が、夜更へ。
黒檀の闇が、兄様の目の色になった。

「そう。僕が、【魔王】だよ」

うそ。うそだ。
あの優しい兄様が。
いつだって笑ってくれた兄様が。
「嘘よっ!」
「サイ様に失礼でしょう。黙りなさい」
エントさんが私にクナイを向ける。その後ろで、兄様がささやくように言った。
「エント、いいんだ。下がって」
「サイ様……」
「僕の命令が聞けないの?」
「……失礼いたしました」
エントさんは深く礼をし、後ろへと下がった。
本当に、兄様が……魔王なのだ。信じられない現実が、目の前に提示される。私の思考はほとんど止まってしまっていた。
「イリス、話をしよう。城で待っているよ」
ふ、と微笑む兄様は踵を返す。姿が闇に掻き消えた。
「待て!!」
フレイムさんが駆け出す。がきん、と、鈍い音が響き渡った。
「フレイム、何処へ行く」
「兄貴……」
「お前の相手は俺だ」
サラマンダーさんの言葉が皮切りだったかのように、4人が武器を取る。
――どうして、たたかわなくちゃならないの。
足が竦む。その場にへたり込みそうになった私の肩を、誰かが叩いた。
振り返ると、笑顔のみんながそこにいた。
「イリスちゃん。行って」
「エコー、さん、」
「うふふ。私たちが負けるはずないでしょう?」
「フラウさ、」
「大丈夫。キミなら辿り着ける」
「イズナさん、」
「イリス」
「フレイム、さっ……嫌、わたし……!」
「馬鹿、そんな顔するな。すぐ行く。今までもそうだっただろう?」
4人は笑っている。涙が零れて、何粒も落ちた。
拳でそれを拭う。
私は頷き、走り出した。
ともすれば零れ落ちそうになる涙を必死にこらえながら。響きわたる爆音にも、振り返らなかった。
この肩には、全ての未来が乗っている。
聞かなくてはいけない。
兄様に。
ねえ兄様。
どうしてなの。



Last Episode3 
【The place of our death】






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