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船がミッテツェントルムの海岸に着き、下船した瞬間から、私たちは言葉を失った。
かつて平和の国として一世を風靡したはずの富に溢れる国は、その姿をとうに喪ってしまっていた。
聳え建っていたたくさんの建築物は凡そ形を成しておらず、地面にあったはずの草木は枯れ果て、空は昏い灰色を呈している。
キナサの状況に、どこか似ている。
そして私は、この景色を知っている気がした。
殆どの人が船を降りきった、その瞬間だった。
グレイの地面が、ぼこ、ぼこ、と盛り上がる。私たちは慌てて後退した。
「な、なに……っ」
「スケルトンだ」
「えっ」
苦々しげにエコーさんが言う。盛り上がった土から現れたのは、見るもおぞましい骸骨の集団だった。
「闇の召喚術だよ。土から生まれるアンデッドだ。下手すっと無限に湧いてくるぞ」
「つまりぃ、私たちを足止めしたいって事ね?」
「なら、進む道は間違いじゃないってことだな」
「ボクに任せて」
イズナさんがすっと前に進み出た。スケルトンが一斉に彼女に襲いかかる。
イズナさんは背負う大きな斧を抜いた。そして、何かを呟く。良く聞こえなかったが、瞬間、彼女を風が包んだように見えた。ふわりと空に浮かび上がると、彼女は、戦斧を円状に振り回しながら、スケルトンの群れに落下していった。
強い風と打撃に、スケルトンは形を保っていられなくなったようで、ざらざらと崩れていく。
「イズナさん、すごい……!」
だれからともなく起こった拍手に、彼女は照れたように目を伏せた。
「先を急ごう」
船に乗せてきた馬に飛び乗り、私たちは走り出した。
だが、行く手にはまたスケルトンが生まれている。これでは切りが無い。体力も、こんな所で削られる訳にはいかないのに。
もどかしい気持ちを抱えながら、剣を抜こうとした時だった。
「お前らは先に行け!」
「ここは我らが食い止める!」
「世界を、よろしくお願いします!」
「み、なさん……!」
兵の方々が、剣を、槍を、武器を手にスケルトンに立ち向かっていた。慣れない戦闘がどれだけ大変か私は身を以て知っている。ぎゅうっと胸が詰まった。
「イリス、行こう。みんなの決意を無駄にしちゃいけない」
「フレイムさん……、はい、」
私は振り返った。そして、声の限りに叫ぶ。
「必ず! 必ず帰ってきますから! 絶対に……死なないでください!!」
数人が振り返り、私に笑いかけた。
「行ってこい!!」
私は前を向く。泣いちゃいけない。
応えなければ。
彼らの、誠意に。
港を抜け、街々を抜け。馬は天馬のように駆けた。もしかしたら、大精霊様が守って下さっているのかもしれない。
走る風景の中で、不思議なことを私は見付けた。
「フレイムさん!」
「どうした?」
「こんなに街が壊れているのに……、お城は傷一つありません」
「……敵の居城はあそこか」
――ミッテツェントルム帝都、エルフセリア。最大にして最後の街。
私たちは、入口目掛けて走り続けた。
ようやく門が見えようかという、その時。眼前に突如、火柱が上がった。
「ッ!」
馬が驚いて前脚を上げる。私は弾かれ、宙を舞った。叩きつけられる。そう覚悟したのに、私に痛みは襲って来なかった。
「大丈夫か?!」
「あ、はいっ……」
私はフレイムさんに抱え上げられていた。慌てて立ち上がる。
4人の馬も、どこかへ逃げてしまったようだ。
――立ち上る、硝煙の匂い。
見渡す限りの、廃墟。
ああ、知っている。
私はこの景色を。
知っている。

「イリス」

煙の中から、私を呼ぶ声がする。
風が強く吹いた。
人影が、見える。
夢では見えなかった、あのひとは。
黒髪は灰空に溶けるように舞い、優しげに微笑む瞳は夜明の色。きらりと光を弾く、十字のペンダント。

「サイ、兄様……?」

そう。私の目に映るのは、愛する兄その人だった。



Last Episode2 
【a spirit deformed by love】






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