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 私とフレイムさんは慌てて外へ出た。店を開ける準備をしている店主さんたちに走り寄り、早口でまくしたてる。
「おいじいさん、最近こっちの方でハイスヴァルムの奴ら、見なかったか?!」
「何じゃ血相変えて。褐色の人らは最近は見んのう」
「ああ、時々買い物に来るくらいじゃ」
 遅れて出て来たエコーさんはきょとんと私たちを見ている。
「何の話よ?」
「いや……実は、うちの師匠からの情報で、ハイスヴァルムの内乱がバオアーまで飛び火するんじゃないかってことだったんだ。それで俺たちが派遣されて」
「……何?」
 エコーさんの顔が険しくなる。店主のおじいさんたちは、商品を並べながらそう言えば、と呟いた。
「フリッシュの人たちは、とんと来なくなったのう。前はよく来てくれたんじゃが」
「寒いから家から出たくないんかの?」
「そうですか……被害が無いなら、何よりです」
 私が言うと、おじいさんは優しい微笑みを浮かべた。バオアーの人たちは、総じて心が温かいように感じる。
「もう行くんか?」
「はい。お世話になりました」
「ええんじゃよ。わしらこそありがとうな」
 感謝の言葉に、くすぐったくなる。いつの間にかフレイムさんとエコーさんは旅支度をしていたようで、またあの大荷物を抱えている。今回は国を縦断するから、長旅になるだろう。
「そうじゃ! フリッシュに行くなら服が必要じゃろう! わしの息子の店で買っていくといいわい」
 各地で着る服も違うと大変だ。それでもちょっとうれしくもある。私たちはおじいさんの案内で息子さんの経営するという服屋さんに入った。
「いらっしゃい! 若い子が来るのは久しぶりだなあ」
「そうなんですか」
「でも、フリッシュの奴らが常連なんでしょ?」
「ああ、でも最近めっきり来なくなって。品ぞろえも悪くて申し訳ないね」
 それでも、店内には所狭しと服が並んでいた。砂漠を超えるためのコートではなく、雪や寒さから身を守るための厚手のものや、皮のブーツ、ズボンやセーターまで。私は一度も着たことが無いし、実際に見るのも初めてだった。
「お嬢ちゃんはそうだな、これなんかいいかな。赤毛の兄ちゃんはこっち、エコーはこれ」
 店主さんがてきぱきと見繕ってくれたそれを、着替え用の部屋で着ることになった。今までのワンピースを脱いで、今度は白いセーターにダークブラウンのズボン、黒の革のブーツに着替えた。上に羽織るコートは薄いピンクに白地のラインが入ったもの。ニット帽もお揃いの色だ。初めて見る自分の冬服姿に、何となく違和感を覚えながらそっと外へ出た。
「うわー!!イリスちゃん似合うねえ!」
「そんな、全然……」
 エコーさんは色違いの薄緑色のコートに白のズボン、茶のブーツとスタイリッシュだ。フレイムさんはまだ出てきていなかった。
 エコーさんが店主さんと話している間、置かれたフレイムさんの剣を見る。大きな剣だ。ちらちらと様子を伺いながら、ちょっと持ってみた。
「重……!」
 とても片手では持てない。両手でも私には無理だろう。この件をあんなに軽々と振り回しているフレイムさんはやはりすごい人なのだ。
「着づらいなこの服」
 ようやく出て来たフレイムさんは、赤のダウンジャケットに黒のズボン、私と同じ色のブーツをはいていた。
「あの、フレイムさん」
「ん?」
「いつもありがとうございます」
「えっ、どうしたんだ?!」
「いえ、何でもないんです」
 あの剣に触ったのは、秘密にしておこうと思った。やっぱりそれをひょいと軽く持ち上げ、脇に差す彼はすごいのだ。
「あの、服のお代はいくらですか?」
 貰った銀貨が二枚ある。それで足りればいいのだが。
「いいんだよそんなもん! 村はあんたたちに救われたんだ、いらねえよ」
 半ば押し出されるように店の外に出ると、そこにはエコーさんのお父様が立っていた。
「親父!」
「よお」
 無言で頭を下げるフレイムさん。私も慌てて同じようにした。
「あーいい、いい、そういう事はしなくていい」
 お父様は手を振って私たちに言った。そして、木の箱を私に差し出した。
「え、これ……」
「開けてみろ」
 そっと木箱を開けると、そこにはきれいなブレスレットが入っていた。黄色の綺麗な石が付いていて、麻で編み上げられている。
「村の奴らが作ったんだ、貰ってやってくれ」
「で、でもわたし、服だってもらっちゃって……申し訳ないです……」
「もらっておけよ」
 隣でフレイムさんが言った。驚いて彼を見上げると、にっこりと太陽の笑顔を浮かべている。
「イリスからしたら申し訳ないような小さな事だって、村の奴らからしたら大きなことなんだ。感謝は、断るもんじゃねえ」
「そうそう。あいつらが頑張って作ったのに、返したら可哀想でしょ?」
「……はい」
 私はブレスレットを腕にはめた。ぴったりだ。
「長い旅路になるだろうが、気を付けて行ってこい」
「はい!」
 黄色の石が、太陽を受けてきらりときらめいた。
 
                    ――Baor Episode End――

Baor Episode6
【I feel good today.】






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