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 エコーさんのおうちは、それほど大きくはないものの、しっかりとした造りの木製の家だった。中に入ると、案外と片付いており、手作りだろう棚にはきちんと皿やコップが並んでいた。男の人の家に入るのは人生で初めてだが、イメージよりもずっときれいだ。
「イリスちゃんお腹空いたよね? ごめんね女の子に何も食わせなくて」
「そんな、大丈夫です……!」
 エコーさんはピンク色のエプロンをしながら(かわいいブタさんが描いてある)言う。申し訳なくは思うが、確かにお腹が空いた。
「手伝おうか」
「フレイムに手伝ってもらうほど不器用じゃないからね! いいからゲストは座ってて!」
 私とフレイムさんはふふっと笑い、白樺で作られた椅子に座った。テーブルにはこれまた可愛らしいギンガムチェックのクロスがかかっている。
 木で作られた家は、初めて見た。
「なんだか、あったかい雰囲気ですね」
「でしょー。俺と村の奴らで作ったの」
「え、すごい」
「だよねえ。俺もまさか、あんな木のきれっぱしからこんなちゃんとした家ができるなんて思ってなかったけど、人間の力ってやっぱりすごいよ」
 くつくつと鍋が良い音をさせている。立ち込めてくる匂いも香ばしい。私はお腹の音を抑えるのに必死だった。
「おまたせ!」
 エプロンとお揃いのピンクのミトンを使って鍋が運ばれてくる。鍋敷きは木を薄く切ったものだった。鍋には、何かの木の実のスープが入っている。その後に持ってきてくれたのは自家製のパンだった。こちらも木の実が入っている。
「いただきます」
「はーいどうぞ」
エコーさんはにこにこと笑いながら頬杖をついて私を見ている。食べている所を見られるのは、恥ずかしい。パンをちぎり、一口食べた。
「おいしい……」
 特別な味がするわけではない。でも、その分木の実の味が口いっぱいに広がる。スープもすする。こちらもとても美味しい。塩味のスープだが、実の味が少しピリッとしていてアクセントになっている。あっという間に食べ終わってしまった。
「ふふ、美味しかった?」
 エコーさんはその綺麗な目を細めて私を見つめる。きれいな顔にじっと見られるのは、やっぱり恥ずかしい。目を伏せながら、小さく頷いた。
「美味しいです、がっついちゃって、恥ずかしいです」
「お前こんなに料理うまかったっけ?」
フレイムさんのお皿も空になっている。エコーさんは窓から見える星空を見上げた。
「村に入り浸ってるうちに覚えちゃった。俺、この村が好きでさ。人も、モンスターも、もちろん自然も。親父が命をかけて守った、この国の全部が好きなんだ」
 エコーさんのお父様。もしかしたらエントさんも同じ気持ちなのかもしれない。ただ、二人の間には、伝え方や守り方に差がある、それだけのような気がした。
「私も、好きです。この国が」
 エコーさんはふっと笑った。とても、とても優しい微笑みで。
 食事が終わり、私と一緒に寝ると言っていたエコーさんの耳をフレイムさんが掴んでソファに縫い付けた。私は苦笑しながらも二人の言いつけどおり寝室を使わせてもらう事になった。
 人のベッドに寝るのはなんだか緊張するが、寝心地はかなり良さそうだ。布団をかぶり、ふかふかのベッドに横たわるのはいつ振りだろう。
 窓際に据え付けられたそこからは、満天の星空が見えた。
 ちらりちらりと瞬く星々。闇夜を照らす月の光。そのどれもが、あんなにも輝いている。
「ふるさとでも、教会でも……星はあんなに見えなかった……」
 世界は、こんなにも美しいのだ。


Baor Episode4
【Twilight】






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