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「…船長がこんな寝方するなんて、珍し。あーあ、一体何やってたんだか、本も散らばってるし。」
「ペンギン?頭抱えてどうしたの?」
「いや…(嫌な予感が外れてくれて嬉しいのは嬉しいが…まさかこんなこととは)」

よくよく見ればローには薄い毛布がかけられている。それに対しにレイは身体を投げ出したように横になっていた。
十中八九、眠ってしまったローにレイが毛布をかけたんだろうが…。

「(果たして、この人が簡単に人の前で寝るだろうか…)」
「なァペンギン、レイさァ。ここが海賊船ってのはわかってるみてェだけど、
自分が紅一点だってことわかってんのか、コイツ。これじゃあ襲われても文句言えねぇぞ。」

シャチが指差す先には無防備に寝るレイの姿。
…一理はあるが、

「…襲う気なのか?」
「…!まっさか!冗談冗談!!」
「……ベポ、レイを部屋まで運んで行ってやれ、シャチもここはいい。戻れ。」
「アイアイ!!」
「んでだよ、ペンギン。」
「…今から船長を起こす。寝起きの船長とご対面したいか?」
「っ!!!か、勘弁!!じゃ、後頼んだ!!」

一陣の風のように部屋から消えていったシャチを見送った後、
ベポはレイをそっと抱き上げた。どうやら本当に良く眠っているらしく少し身じろいだだけで起きはしなかった。
ベポの姿も消えた船長室で、ペンギンは1人溜め息をついた。

「起きてますね、船長。」
「まァな。」

ローのほうへと振り向けば、完全に覚醒している我らが船長。
寝起きの悪い彼がこうもすんなり起きれるはずない。きっと最初から起きていたのだろう。

「よくわかったな。」
「あなたは人の前で簡単に寝るような人ではありませんからね。おれ達の驚いた顔はおもしろかったですか?」
「……」
「…船長?」

てっきり嫌味な笑みが返ってくると思っていたのに、ローは小さく眉間を寄せただけだった。

「寝てた。」
「…はい?」
「後半はお前の言ったとおりだ。確かにお前らが入ってきたときから起きてた。だが…一瞬だけ、マジで寝てた。」
「…あなたが、ですか…?」
「あァ」

さすがのペンギンも驚愕の表情は隠せないようで。
無理ないだろう。ロー自身でさえ驚いているのだから。

「最初はあいつが眠そうにしてたから、おれがココで寝たらどうなるんだろうかと興味本位だった。」

自分もその場に寝るのか、それとも立ち去るのか、可能性は低いと思ったがチャンスとばかりに添い寝するかもしれないな。
そんなことを考えながら狸寝入りをした。そうしたらあいつはおれに毛布をかけて例の医学書を再び黙読し始めた。
そう来たかと、別にそこまで驚きはしなかった。それまではよかった。

「…で、気がついたら眠っていた、と。」
「ほんの15分ぐらいだがな。起きたときにはあの女も寝てた。」
「……」
「……思ったより、気をつけたほうがいいな。」
「…ですね」

別にあの女を疑うことからでた言葉ではなかった。
だが、今回のことは少なからずも考える必要がある。
新たな医学書が出てきて喜びから若干気が緩んでいたこともあるが、それにしたって今まででは考えられないことだった。

「………。ペンギン、あの女、しばらく午前中おれの部屋に寄越せ。」
「…いいんですか?」
「あァ。午前中ならいくらおれでも寝ないだろう。」
「(たまに午後まで寝てるのに)。…わかりました、けれど何故?」
「お前はアイツの名前、文字で見たことあるな?」
「ええ、まァ」

そういわれ、チラリと散乱している本を見ればどれも読めないものばかり。
ああそういうことか、と合点がいったようにペンギンはうなずいた。

「では、これはレイの島の…?」
「おれもそう思って聞いてみたんだが、どうやらどこにも出版した島の名前は書いてないらしい。 グランドラインとも、東西南北どの海か、ともな。」
「そう、ですか…」

目を伏せたペンギンにピクリとローの眉が揺れた。

「なァペンギン、今お前は何を思う?」
「…正直、微妙ですね。落胆な感情もあればホッとした感情もあります。
もしもレイの身元が判明したなら彼女は喜ぶかもしれませんが、おれ達は彼女を送ってやることはできない。」
「…あァ、そうだな。」
「……………。何も、言わないんですね。以前なら「やけに気にかけるな」やら「惚れたか」やら言ってませんでした?」
「おれもお前と同じこと思ったんだ、自問自答してどうする。」
「…!」

サラリとしたローの発言は、口調とは裏腹に意味としては大きいものだった。
ローもそれは承知のようで、口元に苦笑をにじませた。

「らしくないか?」
「とても。…いえ…いや、とても。」
「…二度言うか。」
「おれだって混乱してるんです。悟ってください。」
「ああ。わかってる。…おれもだ。」
「……。」
「……、お前に1つ問う。」
「…なにを、ですか?」

「お前はあいつを信じるか?」



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