Unrequited | ナノ



両手を天井に向かって伸ばし、ふうと息を吐く。社会は板書が面倒だから嫌だなあ、と誰しも一度は思ったことがあるであろうことを改めて感じて、机に突っ伏せる。そんなの今に始まったことではないけど。

「桧原、一緒に飯食わね?ってリコが」

とんとん、と肩を叩かれて振り向けば、眼鏡…もとい、日向君から(リコちゃんから?)お昼のお誘いがかかった。

「本当?じゃあお邪魔しようかなー」
ちょっと待っててお弁当取って来る、と先に行くように伝えて私は急いで自分のロッカーに向かった。

*

「お昼一緒に食べるの久し振りだよねー」
「最近部活で何かと忙しかったからね、」
「いや、それはお前の所為だろう」

リコちゃんは日向君の言葉を無視して本当久し振りだねーと笑った。この二人はこんなやり取りこそあるものの、仲良しに見える。付き合っているかは聞いたこと無いけれど、バスケ部のキャプテンとマネージャー、じゃなかった監督ならそんなことがあっても可笑しくないだろう。むしろその方が自然だし

「ふたりってさ、付き合ってないの?」
「ん、まあね。あたしそういうの興味無いし」
ばっさりと切り捨てられていた。しかし当の本人も特に気にした様子は無い。そういう関係では無いということか。何にせよ仲が良さそう、と思った

「今バスケ部で付き合ってる子いたっけ?」
部内事情を把握していそうなリコちゃんが、そんなことを言い出したから、ちょっと驚いた。一通りバスケ部のメンバーを脳内で反芻する。それよりも早く日向君が口を開いた。
「んー。伊月ぐらいだろ?ほら幼馴染とか言う」

え?何それ、伊月君が付き合ってる?
え、え…。嘘でしょ、ねえ嘘って言ってよ。
そんなこと、って…無いよ。嫌だ、…嫌だよ

「そんなこと言ってたわね?って、どうしたのさくら」
「あー、ううん。知らなかったからびっくりしただけ」

そっか…、そうだよね。伊月君かっこいいし、彼女いないわけ無いよね。何で気付けなかったんだろ、バカみたいだ。信じられなくはなかった、嫌でも信じるしかなかった。根も葉もない噂ならまだ信じなくてもよかった。でも中学から一緒である日向君が言うんだ、本人から聞かされたといってもいいくらい。

「桧原はそういうの無いのか?」

伊月君のことが好きだなんて、この状況で言えたことではない。告白してないのにフられたとはこのことである。フられていなくても言えなかったのなら一緒なのかな・・・。

「あたしは全然。相手がいないしさ」
「えーさくら可愛いのに。」
「そんなことないって、リコちゃんの方が可愛い」

そのあとはいつも通り、他愛もない話をしながらお昼休みを終えた。ただ、大好きな部活の時間になっても日向君のあの一言が頭にこびりついて、離れてくれなかった。