僕+君=××? | ナノ

Are you ... ?


ウォークマン(イヤホンはApple社)を胸ポケットに突っ込んで、欠伸を噛み殺しながら電車に乗り込んだ。

「(どこの駅で乗り換えだっけ、…)」

大阪にある親戚の家に行くために、印刷した乗り換え案内の紙をポケットから取り出す。当分はこのままだからどこかに座ろうかと視線を動かす。朝の通勤ラッシュを終えた車内では空席が目立ったので、比較的近い窓際の席に座った。

窓ガラスに頭を預けて、流れていく景色に目をやる。といっても意識が向いているのは耳なのだが。昨日入れたばかりの新曲は、調教のおかげでボカロとは思えないほど耳に馴染み、歌詞が頭に入っていく。

「(本当にボカロっていいなあ…)」

何度思ったか分からないことをまた改めて思い、終わりそうになる曲を頭まで戻してリピートする。多分大阪に着くころには、メロディーと音程ぐらい覚わるだろう。歌詞も一番くらいなら多分。
単調ではあるが単純ではない、耳に残るがありきたりではないメロディー。リアリティのある年頃の恋愛を描き、共感を誘う歌詞。「らしさ」を残しつつも、限りなく肉声に近い調教。文句無しというか、文句のつけようが無い。

此処まで書いたことでも分かる通り、私は生粋のボカロ厨であり、ボカロPの中でも神と名高い「善哉P」の信者…もとい、ファンである。

善哉Pについて語ろうと思えば、小一時間あってもその素晴らしさの十分の一も説明できやしないだろう。勿論彼のブログは毎日欠かさずチェックしているし、新曲があがれば即マイリス、即ウォークマン行きで、リピート回数は他の人の比では無い。高校生というのもあり、イベントへの参加は今だかつて無いが、生放送を聞き逃したこともない。プレミアム会員への登録は正直懐が寂しくなりそうだが、彼の生放送を聞き逃したショックと比べれば安いものである。
簡単に言えば、心酔している。栄養源である。

と、我が神について語っているうちに、既に乗り換えの時間が来たようで、イヤホンを毟り取って席を立つ。お土産の紙袋を片手にホームへ足を踏み出す。東京ほどで無いにしろ、車内に比べて人は多かった。流されるように階段を降りて、どちらに行くか分からず駅の案内を探す。

きょろきょろしていて不注意だったのもあって、不意に後ろからドン、と衝撃が加わる。

「っ、…たた、すみません」
「あ、悪ィ。怪我無いか?」

落とした紙袋を拾って手渡してくれた。ありがとうとそれを受け取り、ふと違和感に気付く。もしかして、どこかで会ったことある・・・?顔を見上げると、紛うことなきイケメンが。ピアスをしているが同年代ぐらいに見える。いや、こんなイケメンの知り合いは私にはいない。
人通りが抜けていき、ふうと溜息を吐けばまだ隣にはさっきの彼がいた。多分言葉遣いやイントネーションからしても地元の人だろう、道を聞いてみようか。


「…あ、あの!」
「おん?」
「よかったら道教えてもらえませんか?…東京から来たけど、初めてで…」

ええよ、と私の手から地図をひったくって、今はここ。と駅を指差す。

「で、どこ行くん?」

目的の場所を伝えれば、一瞬驚いたような顔をして地図を返された。え、教えてくれるんじゃないのかな。

「俺も今から行くとこや。」

着いて来、と歩き出した彼の隣に着く。無愛想だけど、悪い人ではないみたい。…それにしても、本当にどこかで会ったことがある、気がする。いや見たことのある…聞いたことのある……?

「すみません、もしかしてどこかでお会いしたことありますか?」
「……いや、あらへんと思うけど。」否定された、けど。今一瞬動揺していなかった?見間違いだろうか。もやもやした感情を胸に秘めたまま、彼の半歩後ろを歩く。それにしてもこの人背高いなあ・・・顔を見るには完全に見上げないと無理だ。それに、ちょっと喋っただけだけど、良い声してる。モロタイプ、好み。低すぎず低い。

って、あ!この声って好きな生主…てか!善哉Pの、声?でも、あの声は特徴があまりある方ではないので、声だけで断定する事は出来ないが、毎日撮った生放送を聞いているくらいだから可能性はある…。

「…あの、もしかして貴方は!」
その先の言葉に振り返った顔が、驚きに変わったのを見て私は確信を抱いた。