「何だか老けた気がするから嫌だなあ」 どこからか引っ張り出してきた、アルバムの中の一枚の写真を見つめて口元を綻ばせた。
夕日を背にして歩いたあの日のことは、いつまでも忘れない。きっとあの記憶だけは、穏やかに綺麗なまま俺の中にあるんだろう 夕日を見るたびに思い出す、あの日と、君。
*
今思えば、なまえは俺の初恋だったんだ。 中学3年になって間もない頃、俺はなまえと付き合い始めた。クラスも部活も違い彼女と唯一、一緒に居られる時間は帰り道だけだったけれど。
毎日、他愛の無い話で盛り上がった。彼女は恥かしがり屋だったから、恋人らしいことはしなかったけど、それでも良いと思えるくらいには俺はなまえのことが好きだった。
「・・・手、繋いでもいいかな?」 彼女の家まであと少し、と言うところで俯きながらそういってきたときのことは今でも良く覚えている。 それまでもなまえのことは好きだったけれど、それ以上に好きだと感じたのがその時だった。愛しいという溢れる感情を必死に抑えて、彼女の手を握った。
どんなに辛い事があってもなまえを見れば、なまえのことを思い出せば笑っていられたし、忘れられた。 「精市君、!」と俺を呼ぶその声だけで部活で疲れた身体は癒えた。
喧嘩も無く、ずっと一緒に居られるとさえ思えた日常が緩やかに音も無く崩れていくなんて予想すら出来なかった。
高校に入ってお互い忙しく、一緒に過ごす時間も減った。 メールや電話も少なくなり、相手の事を考える時間が減った。そんな曖昧な状況の中で別れを切り出したのは、なまえの方だった。
「ねえ、精市君。もう別れようか、私の存在は貴方にとってもうマイナスにはなってもプラスにはなれないんだよ。」 そんなことはない、と否定していたら何か変わっていたのだろうか。 彼女の言葉は直接俺にも言えることだった。なまえにとって俺の存在はマイナスになってもプラスにはなれない。お互いがお互いのことを好きだったのに、別れざるを得なかったのは何の所為だったのかは未だに分からない。
でも、あのときの写真を見ていると自然に涙が溢れてきた。 「あ、れ・・・・・・おかしいな・・・」 もう思い出になったはずなのに、何故こんなにも胸が痛むのだろう。 今でも俺は彼女のことが好きなのか。 多分通じてしまうだろう携帯ににメールすることも、電話をかけることも今の俺には出来る筈も無く。
ただその気持ちを胸の奥底に鍵を掛けて、閉じ込めてただの"思い出"に変わってくれるのを待つことしか出来ないのだ。
企画提出 : 恋する王子様
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