「征くん」と、俺をそう呼ぶ声が他の何よりも好きだった。
女子特有の頭痛のするような耳障りな甲高い声ではなく、澄み切っていて透明感のある落ち着いた声。本人はコンプレックスに思っているようだが、他と比べると少し低いくらいのその声が俺は好きだった。

勿論、声だけではない。彼女の存在の全てが好きで愛おしい。彼女のものを構成するものの全てが在るからこそ好きなのだが、彼女のものであれば例えどんなものであっても好きになれる自信がある。そうならないことが考えられない、そうならないことは有り得ないと断言出来る、というといかにも薄っぺらく聞こえてしまうかもしれないが。

自分で言うことかは分からないが俺は彼女を溺愛している。彼女のためなら何だってできるし、彼女のためなら死ぬことも厭わない半面で殺したいほど愛おしいとも思う。


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