「・・・・・・はぁ」
何で私が、こんな重い資料を運ばなければいけないんだー!なんて心の中で叫びつつも学年主任には敵わないので(そもそも教師には敵わないが)仕方なく学年分の進路学習のための資料の山に手を掛ける。一冊一冊は薄っぺらくて軽いのに学年分ともなれば薄いとも軽いともいえなくなるたかが紙も集まればこの重さと思うと偉大…である。
「何ひとりで嘆いとるん」
「お、あ…財前、君…?」
言葉にしてしまっていたらしい私の呟きを聞いてか、呆れたような声に振り向けば隣の席の財前君だった。昼休みにテニスでもしてきたのだろうか。いつものふわふわした黒髪はぺたん、と萎んでその額にはうっすらと汗が滲んでいた
「何その冊子の山」
「あ、えっと…多分5時間目に使う資料、やと思うけど。」
とそんな話をしている場合じゃない、5時間目までに全クラスに運ばなきゃいけないんだった。時計はもう開始の5分前を指しており、この量を持って階上の教室に配らなければいけないのである。
「ごめん。ちょっと急いでるから…」
冊子の山を持ち上げて落とさないように階段を上り始める。下が見えなくて階段が上りにくい、と思った刹那目の前の資料の2/3ぐらいが横から掻っ攫われた
「え・・・、と、財前君?」
「女子に資料運ばせるとか有り得んわーあのセンコー。」
俺だけ無視して戻るのも後味悪いし。お前一人で運んどったら日が暮れるやろ。授業間に合わんかったら困るやろ?なんてちょっと言い訳じみた愚痴もどこか照れ隠しのように聞こえた何より手伝ってくれた事が嬉しかったし心の底から助かった。
「んで、これどうするん」
「各クラスに配る、みたい…」
めんどいなあ、主任も自分でやればええのにな。悪態をついていたのに律儀にクラスに配るところまで手伝ってくれた。律儀な人なんだなあ、と感心してしまうしとても有難かったと同時に、申し訳なさも込み上げた。
「ごめんね、私が頼まれたことなのに…」
「別に。俺がやりたくてやったことやから」
少し照れくさくて俯いて、ありがとうだけ呟いて返ってきたおん、と低い声が耳に心地良い。戻るかと言われて我に返り彼の半歩後ろをついて教室に向かった
「見たで、今日財前とええ感じやったやないの」
帰り道。いつものように鞄を千紘の自転車に乗せて歩き始めていた
「え・・・、何のこと?」
「惚けてもあかんで。一緒に階段とこおったやん」
あぁ、資料運んでくれたときのことか。ええ感じというか財前君が運ぶの手伝ってくれただけなんだけどな・・・「運ぶの手伝ってくれたから、うん」
「ふーん、手伝ってくれた、ねぇ・・・」
財前もええとこあるんやなあ。ハルやからか?
よく分からないことを呟いている千紘の隣で、今日筆箱に貼られていたアドレスのことを思い出した
「ちーちゃん、このアドレス誰のか分かる?」
「アドレス?…うーん、あたしは持ってへんなあ」
何で、と問われて筆箱に貼られてたの、と返すとまた訝しげに目を潜めてそのアドレスを睨みつけていた
「心当たりないん、」
「無いと思う、けど・・・。あ!」
「財前、か?」え、何で分かったの─何や図星かいな。
カマかけられてたのかと分かると、何だか見透かされていたのが恥ずかしくてかあっと頬が熱くなる。そんなに私財前君財前君言ってるのかな。しかし千紘はそれ以上追求することなくそれよりさ、と話題を変えてくれたの心の中ででほっとしてアドレスを胸ポケットにしまい込んだ
メール、してみようかな・・・・・・
重い資料運びをしていたらさりげなく手伝ってくれた(隣の彼はクールに見えて実は優しいようです)