eternity | ナノ

あー分かんない数学って苦手。

そんなことを心の中で呟きつつカリカリとペンを進めていくもどうもやる気が出ない。三年になってもうすぐ一ヶ月が経とうとしているが、普段の生活には慣れてもこと勉強…特に数学に関してはもとから苦手なのも相俟って本格的に訳が分からない。数字を見ていると頭が痛くなる…なんていうのは大袈裟かもしれないけどそれに近しいものはある。お気に入りのシャーペンを額にとんとん、と当ててみても神からのお告げの如く答えが降りてきてくれたりはしないらしい。


「・・・じゃあこの問題、遠峰」


あ、当たっちゃった…やる気無いのバレてたのかもしれない。ノートに目をやると丁度分からないけど、どうせ当たらないやと油断していた問題だった。どうしよう分かんない、宿題の答え合わせだから答えられないは残念ながら通用しないようだ。

「どうした、遠峰お前だぞ」

はい、と先生には届かないような小さな声で呟いて渋々立つ。どうしよ、適当に言えば当たるかな、当たらない、だろうなあ…。答えようと口を開きかけた瞬間、私のノートの上に字が書かれていた。横向きだし明らかに私のものではない字。これ、もしかして問題の答え…?縋るものがあるなら何でも縋ってやりたい気分で答えと思わしきものが差し出されたら手を伸ばすのが人間の道理ってやつだと思う。

「えっと、5a(3x-y)・・・です」
「そうだ。じゃあ次の問題…」

お、合ってたらしい、ではなく。あの字は誰のものだったんだろう、なんて答えは明白だけれど視線だけを隣のへ向けても彼は窓の外を眺めていた。書いてくれたであろう答えを消してその上に彼に向けて文字を綴る。

──ありがとう、助かりました
と書いて彼がしたようにノートを差し出すと彼は驚いたように振り向きノートに目をやったあと、

──別に。数学嫌いなん?
と返ってきたので小声で喋れば良いものの、それが少し可笑しくて何故かそのまま筆談を続けていた。何より彼がそんな性格に見えなかったといったら偏見になってしまうのだろうか


──うん?嫌いではないかな…でも苦手、です
──なんで敬語w 俺は得意やけどな
──そっか、羨ましいなあ

さっきみたいに直ぐに返事は返ってこなかった。あれ、と疑問に思っていると溜息を吐いて頭を掻き毟っている音がした。また差し出された文字に私は目を見開く。

──そうやなくて。教えたろか

え。今度は此方が固まった。教えたろかって数学を、財前君が、私に?だよね。
今年は受験だし苦手な数学を教えてくれるなら願っても無い提案だけど…そんなの、いいのかな。それにしても何で今まで関わりも何も無かったのにそんなこと、してくれるんだろう…。でも、


──迷惑じゃない、なら。お願いしたいです

今度は私の筆箱から付箋を一枚取って(放課後に図書館)と書いて私のノートに貼り付けた。そして彼は彼のノートに書いた筆談の跡を消して黒板を写し始めた。私も自分の字を消して付箋を缶ペンに張り替えてさっきよりもちょっと真剣に授業に耳を傾けることにした



授業中指されて戸っていたら助けてくれた
(隣の彼はどうやら数学がお得意なようです)