eternity | ナノ

お気に入りの曲をかけた携帯のアラームで目を覚ます
いつもならあと5分・・・とそのまま毛布の中に潜り込むところをぐっと堪え、もぞもぞと布団から這い出てカーテンを開け放つ。条件反射で思わず目を細めるが完全に日が昇るまでには時間が足りず、そこまで眩しくは無かった。

アラームを止めた手で昨日受け取ったメールを再度開いて見る

"明日一緒に甘いモン食いに行くで"・・・うん、間違いない
私の好きな、大好きな人からのメールはこんなにも嬉しいものなのかと思わされる。少しだけ夜更かしして選んだ服をまた見直して、無難なジーンズをお気に入りの薄ピンク色のチュールスカートに替えてそれに合うシャツを選ぶ。

顔を洗って、朝ごはんを食べて、歯を磨いて、選んだ服を着る。いつもは二つに結んでいる髪もポニーテールに結い上げて数えるほどしか使ったことの無い花のシュシュで纏める

姿見の前でくるんと回ってみる。おかしいところは、ないよね・・・うん、大丈夫!
鞄に必要なものを詰め込んでそろそろ家を出ようとしたときに、携帯が光った


「財前君、だ……!」
なんだろ、駄目になっちゃった、とかじゃないよね・・・

「も、もしもし・・・・・・」
『悠か?何や寝起きやなさそうやな』
「え・・・寝起き?ではないよ、どうしたの?」
『いや待ち合わせ早かったから寝とらんか心配になってん』
「起きてるよ!今家出ようと思ってたの」
『奇遇やな、俺もや。じゃあ駅でな』


ピ、と電話を切って靴を履き駅までの道を歩く。駅にはまだ人は少なかったので直ぐに見つかった

「おはよ、財前君」
と声を掛けると欠伸を噛み殺しながらもはよ、と返事をしてくれた。


「寝起きなのは財前君だね、」
「朝は弱いからしゃーないやろ」

じゃあ何で待ち合わせもっと遅くしなかったの、と言いたくなったが財前君が歩き出してしまったので半歩後ろを歩く。私服姿の財前君はいつももかっこいいけど2割増でカッコよく見えたけどそんなことを言う勇気は生憎持ち合わせていなかった


「今から行くのって新しく出来たスイーツのお店?」
「何や、知っとるんか。昨日開店やったけど部活あったから行けんかったからな」

ひとりで行っても良かったけど、悠そういうの好きそうやったからと頬を掻く財前君を見て思わずくすりと笑って幸せな気分で心が満たされていくのが分かった。

「財前君って甘いモノは何でも好きなの?」
「まあ大抵のもんはな。一番は善哉やけど」

今日行くのは洋菓子屋さんだけどいつか善哉も一緒に食べに行きたいな、なんて口には出さず心の中に閉まっておく。


それから何を食べようとか、その後どうしようとかあれこれ話して。こっそり周りからは恋人に見えるかななんて一人で空想して、また幸せな気分に浸るのに専念した。




そしてお目当ての店に着いたときには行列は出来ていないけれど、それなりに人の入りはよかったみたいで、地元の高校生や大学生、OLなどで賑わっていた。
日替わりのスイーツが2種類あったのでそれぞれ別のものを頼み、ドリンクはコーヒーとミルクティーを頼んだ。


「・・・わ、おいしそう!」

「せやな・・・美味そうやん」


Aを頼んだ私はブルーベリーのレアチーズケーキ、Bの財前君はレモンパイだった。
うん、どちらも美味しそうで賑わっているのも頷ける。

二口、三口立て続けに口に運んでそれぞれ美味しい、美味いと呟いて顔を見合わせて笑った。


「なあ、俺そっちも食ってみたい」

「いいよー私もレモンパイ食べたいもん」


どうぞ、とフォークごと差し出してしまったことに、財前君が口に運んだ瞬間に思い当たった。・・・間接キス、なのかな
特に気にする様子もなく、うまっ!と食べているのを見て気にしていないようなので、ここで私が何か言うのもまずいかと思って私もレモンパイを齧った。
仄かなレモンの酸味と甘いカスタードとさくさくの生地が見事にマッチしていて美味しい。


不意に誰かが初恋の味はレモンの味だと言っていたことを思い出した。
確かに!と一言呟いたら財前君に不思議そうな顔で見られたため、・・・何でもない、と首を横に振る。

ミルクティーを啜り、幸せそうに食べ進める財前君を盗み見てくすり、と笑ってまた違うケーキも食べに財前君と来れたらいいなあと密かに思っていた。