二人ならばどこでも | ナノ


二人で旅行いってるだけ





ガタンゴトン
ガタンゴトン

懐かしくて幼い擬音語だと思ったけど、今乗ってる鈍行は確かにそう音を立てて走る。鈍い音とともに振動が俺を揺らす。ふと窓の外を見ると色付いた木々の葉が段々と落ちているのがわかる。
東北にむかう電車の中は暖かい。かたい椅子にながい間座ってるのは辛いが、振動と暖かさに眠気を誘われ、目蓋が重くなる

「シズちゃん、眠いの?」

向かい座席の俺の前に座る臨也がくつくつと笑う
いつもは名前の呼び方も笑い方も苛つくのに、今は何故か落ち着いた。この高めの声が実は俺は好きなんだと実感する。

「…そうだな、眠い」
「珍しく素直だね」

茶化すような言葉だが、悪意は感じなかった。ただ臨也の笑顔を見るのも辛いくらい眠かったの確かだから。

「俺の隣においで、肩貸してあげるよ」
「…え、いらねぇし、」

でも窓縁に頭預けるのはかたいし、寝にくいでしょ
と、臨也の隣、空いてるスペースをポンポンと叩いて、俺の移動を促した

「男同士だぞ」
「誰も居ないし、見てないよ」

確かに今この車両の中には俺達くらいしかいない。週の真ん中の平日その上お昼過ぎ、人が少ないのは頷ける。端の席に老夫婦が居たくらいで、この位置からはどちらからも見えない。
臨也の言うとおり、窓縁に頭を預けるのは揺れるし煩い。だったら仕方なしでも臨也の肩は借りてやることにする。
今座っている席から腰を浮かし、向かいの臨也の隣に落ち着く。臨也はにこりと笑い「いらっしゃい」と俺の頬を撫でた。臨也の手のひらは冷たくて、火照った頬には気持ちがよかった

「着くにはまだ長から、ね」

俺は無言で頭を臨也の肩に乗せた。手は冷たいくせに、首周りは暖かい。
臨也は首にあたる俺の髪がくすぐったいのか少し身をよじらせた。それが可笑しくてからかってやりたがったが、眠くて叶わなかった




「旅行にいこうか」

言い出したのは臨也だった
夏が終わり、短い秋すら終わろうとしてる季節。薄着で出掛けるには肌寒いくらいで、俺はまだバーテン服を着ていたが、臨也のコートに違和感は感じなくなってきた寒さだった。
その日は臨也の事務所兼自宅にいて、俺は本を読んでた。

「池袋を一週間くらい離れてさ、旅行しようよ。北の方に…温泉とか入ってゆっくりしない?」

臨也の誘いなんていつもろくな事がないと思っていて、今回だって一蹴りして断ろうとしたが、どうやら臨也は本気らしくて俺は否定の文句の一つも言えないで頷いていた。きっと俺もずっと都会にいて疲れてたのかもしれない。

「じゃあ決まり、シズちゃんは皆に一週間旅行に行くって伝えること」
「え、でも俺、金…」
「お金なんて俺がいくらでもって出してあげるから」
「…」
「気にしないでよ、そんじょそこらの取り立て屋なんかより全然収入も仕事だってあるんだから」
「うるせぇな…てめぇの仕事はどうすんだよ」
「一週間分はもう働いてるんだよーだ」

そういって臨也は満面の笑顔で二人分の特急券を俺に見せた。俺が断るなんて微塵も考えてなかったんだろう。俺は呆れて笑うしかなかった。


それからは早くて、俺はトムさんに仕事を一週間休みたいと言うと、途中で投げだすことはあったが、基本休まなかったので有給は余っていたらしく快く承諾された。おみやげも頼まれた。
他には幽とセルティに新羅に知らせるくらいで、後は少ない荷物をまとめるくらいだった。
久しぶりの私腹はタンスのにおいがついてしまっていて、着るのを懸念した。臨也にはバーテンもいいけど、それも良いねと褒められて、気恥ずかしくて、でこピンをしてしまったが。



臨也に起こされて目を覚ます。どうやら目的の駅についたらしくて、眠い目をこすると臨也に赤くなるからダメと優しく怒られた、子供じゃあるまいし。
荷台から二人の荷物を下ろして、電車から降りると気温の差に身を震わせた。臨也に行くところは寒いって言われていたから厚着を着てきたのに、だいぶ寒い。

「旅館の人が、着く時間には車で迎えにくるって行ってたし、改札でたら探してみよう」

迎えがくるってことは結構いい旅館なんだろう。臨也が言うには飯も美味いらしいし、俺の期待も高まる。
もう着いていた車に二人乗り込み揺られて5分程度。降りた旅館はとんでもなく豪勢だった。前に幽が仕事の最中に、こんな所に宿泊したとメールで送ってきた写真にこんな旅館があった気がする。とにかく俺みたいな奴は場違いな気がした。
「ご予約の折原様ですね」と仲居さんが案内してくれた長い廊下。外は中庭が広がっていて、室内と外の気温差に窓は結露していた。

「なんだか夫婦みたいじゃない?」

12畳二間露天風呂付きの広い和室に通されて、浴場の場所やら時間帯やら一通り説明された後、お決まりの「ごゆっくり」で襖を閉められた後、臨也は満足そうにのたまった。

「馬鹿じゃねぇのか?」
「ははっシズちゃんと旅行にこれて浮かれてるのかも」
「そうだな、絶対そうだ」

実はこの部屋に通されるまで途中、ずっと仲居さんから質問責めをされた。どこから来たのか、どれくらいここにいるのか、どういった経緯の旅行なのか、…。
臨也は嬉々として仲居さんの質問に答えていった、ただどんな仕事についているかと聞かれ、臨也がフィナンシャルプランナーと自信満々に答えたときは俺は疑心の目に満ちていたと思う。

「それに、俺はフィナン…なんとかの嫁になったつもりはねぇ」
「フィナンシャルプランナーだよ、より良い経営、より良いビジネスをするためにアドバイスするのが仕事」
「……あぁ?」
「わかんないならいいよ、まぁ一応表向きの仕事はそれなの、俺の可愛い奥さん」
「…可愛くねぇ」

奥さんは否定しないんだ。と臨也がわらう。
なんだかんだ言って俺は臨也が好きだから、素直に好意を示されるのは嬉しい。俺は素直になれないが。

「ご飯は7時からここで頼んでるんだ、それまで少し外散歩しない?」
「臨也はいいのか?したいこととか…」
「俺はシズちゃんと旅行がしたいことだから」
「ばーか」

俺もだなんて言えなかったけど、手を差し伸べる臨也を見て恋人つなぎをしてやった








二人ならばどこでも







「お、お土産屋がある」
「そういえば新羅が温泉饅頭欲しいって…」
「セルティには小物買ってくか」







ほのぼのしたイザシズが書きたいです


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