それは嫉妬 | ナノ





シズちゃんの家にシズちゃんそっくりのアンドロイドが来たらしい




「いやあ…こんなに似てるなんてね…」

びっくりだよ
臨也は誰に聞かせるでもなく呟いた
津軽はソファに我が物顔で腰かけた臨也に視線をよこす
ローテーブルに緑茶のはいった湯飲みが一つ、音をたてないように小指を一旦クッションにして置かれた
細かい所作はやはり津軽の方がしっかりしているようだ

「似てる…俺と静雄のことですか?」
「それ以外の何があるのさ」

ねぇ、津軽

津軽、いわゆるアンドロイドが静雄の家に預けられたことは、もちろん臨也の耳にも入っていた
誰に教えてもらったわけではない
旧知の仲である新羅は基本秘密主義だし、運び屋のセルティも臨也とは必要最低限話そうとしない、自分で調べたのだ
非合法で

「はじめに知ったときは驚いたね、まぁ首無しってのが存在してるんだしアンドロイドだってあってもおかしくない…でもよりにもよってシズちゃんにそっくりなんてね、人間にしたいくせに化け物のシズちゃんだなんて」
「…静雄は化け物じゃない」
「化け物だよ」

津軽は臨也を非難の目で見る
敬愛なる静雄を化け物呼ばわりするのだから当たり前だろう
そもそも臨也が訪れた時点でその反応をしないのがおかしいのだ

臨也はいきなり静雄の自宅に押し掛けた
いきなりといっても臨也は静雄がいないタイミングを図って来たのだが、津軽はもちろん静雄にとっては知らないことだ、約束を取り付けているわけがないのだから
静雄が仕事で家を空けているとき津軽が留守番をしていることくらい知っていた
だからそこを狙って静雄の自宅に来たらば、やはり津軽が出迎えてくれた
特に追い返すこともなく、招き入れてお茶を煎れてくれている、警戒概念はどうなっているのかと懸念した
臨也はどうせ追い返されると思っていたのだ、ただアンドロイドを実際に確認できたらいいと思っていた程度なので、まさか家に上がれるとは考えていなかった
どうやら津軽は臨也のことをしっていたらしい

「静雄がよくあなたの愚痴を言っている悪い人なんだろう?」

いつ間に津軽の敬語が抜けている、警戒がとけたか、それとも臨也に使うまでもないと思い至ったのか、どちらともいえるだろう

「心外だね、俺は俺なりにシズちゃんとコミュニケーションをとっているつもりなのに…」
「冗談はよしてくれ、あなたは静雄を傷つけているだけだ」

津軽が静かに床にしかれた座布団に座る、着物の裾をまとめ、正座の形を取る、背筋をピンと伸ばして臨也を見据える姿はまるで異国の人形が着物を来てるようだ
つまりは美しいのだ
上品な着物のせいじゃない、津軽の一つ一つの所作が美しい上に、静雄の容姿だからだろう
モデルになったのは静雄なのだ、普段粗雑な静雄が礼をわきまえたらきっとこれより美しくなるに違いない
思わず見とれていた臨也ははっとして言葉を紡ぐ

「津軽…君はシズちゃんを人間だとでも思ってるの?」
「当たり前だ、静雄は笑うし怒るし傷つきもする」
「それだけ?だったら君だってそういう感情はあるんだろう、アンドロイドの癖に…」
「…っ」

臨也の今までにないキツい言い方に津軽は言いよどむ
さっきまではまるで雰囲気が違う

「機械のくせに人間の事を語るんじゃないよ、作られて間もないのにシズちゃんのそばにいちゃって、シズちゃんの事しか知らないんでしょ?」
「そんなこと…」
「だったら人間なんで語れないね、人間っていうのはね奥深いんだよ、あんなに短気じゃないし、ましてや怪力なんて持ってないんだ、シズちゃんは化け物だよ」
「…ぁ…ぅあ」

臨也の酷い言葉に津軽は言葉かでない
ただおびえた瞳で臨也を見上げるしかできない

「だからさ、君の大好きなシズちゃんは人間なんかじゃないよ、化け物同士仲良くしちゃってさ、とんだお笑い草だよね」
「津軽は化け物じゃねえよ」
「っ!?」

津軽は化け物じゃないと、津軽と同じ声色でいった主は臨也の後ろのリビングの入り口にいた

「…シズ…ちゃん」

紛れもなく静雄だった
きょうは夜中まで仕事が続く予定のだったはずだ
だから油断してしまったのか、それとも柄にもなく熱くなってしまったのか、静雄の帰宅に気がつかなかった
臨也は恐る恐る振り向く
鉄拳がくると思った、鬼のような形相で怒っていると思った
しかし静雄は静かに立っているだけだ

「津軽は化け物じゃねえ、俺は化け物でも津軽は違うんだよ」

静雄は臨也を素通りして津軽の隣にひざを突き、優しく頭を撫でてやる
呆然とするのは臨也の番だ

「は、ははっ…おかしい…化け物が機械を庇うのかい?」
「うるせえ」
「まったく君達二人には感嘆するよ、顔がそっくりな上に人間じゃない、まるで仲良しな双子だね!!」
「臨也よう…」

お前もう帰れよ
静雄は静かに言った
臨也を見ないで、怒るでもなく泣くでもなく、ただ静かに言った
静雄が家に帰ってきてから、ただ一度も臨也と目を合わせていない

「…っ」

こうなれば臨也は帰るしかない
乱暴にリビングの扉を閉めて、靴を履き玄関をでる
カンカンとアパートの階段を音をたてて降りる

(まるで、俺が悪者だ)

臨也の胸にあるムカムカした感情は知らない振りをするには余りにも大きくなっていた






それは嫉妬




「波江、帰るの?」
「あなたに大きなお届け物があったわ…私はしばらくここにはきたくないから」
「給料出さないよ?」
「結構よ、お届け物と仲良くしてなさい」


◇◇◇
臨也さん接触です
あと最後に伏線つけてしまいました、まだ続きます
ごめんなさい



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