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やってしまった。

電話を切った後、神宮寺はそう頭の中で叫んだ。額を腕で覆いながら、ベッドに体を仰向けに倒す。二段ベッドの下から、天井を苦々しく見上げながら、神宮寺は先刻の自分の失態を反芻した。

「なかなか会えないからって浮気するなよ」

聖川のような生真面目な男には、決して言ってはいけない言葉だった。口をついて出た瞬間、しまったと思った。しかし、気づいたときには後の祭りで、電話は不機嫌そうなため息と共に切られた。弁明の余地も与えてくれない。相変わらずいい性格してやがる。

罪悪感がやり場のない怒りに変わっていく。じわりと押し寄せてきた不安に、神宮寺は首を左右に振り、抵抗を試みる。

不意に部屋の扉が開いた。はっと目をやれば、既に馴染みとなった威圧的なオーラの彼が立っていた。タテガミのようにセットされた銀髪と、印象的なオッド・アイ。ギロリとこちらを睨み返され、相変わらずの肉食獣のような態度だと、感心する。

彼はシャイニング事務所の先輩であり、神宮寺と聖川、共に認めてもらわなければならないマスターコースの担当教官、黒崎蘭丸だった。

「お前、何やってるんだ?」

黒崎が冷たい目で神宮寺を見下ろした。

「聖川のベッドで。頭でもおかしくなったか?」
「別に」

神宮寺ははっと起き上がり、乱れた髪を手櫛で整える。黒崎は神宮寺の慌てた様子を横目に、さして興味はなさそうにソファに座り、缶コーヒーを口に含んでいる。神宮寺は平静を装いながら、携帯電話のディスプレイを見つめた。



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