伊勢神宮内宮から、伊勢市駅近くの旅館へと戻ってきた。夕食までの時間に温泉に入ることにした。

各部屋に温泉があるなんて、今の自分たちには分不相応かもしれないが、やはり初めての旅行たし、少し奮発しよう。

聖川がはにかみながら言っていた。神宮寺はその、財閥の長男でありながら庶民的な感覚に吹き出してしまった。聖川はあまり笑われた理由を理解していなかったようだけれど。


1日歩いて、心地よい疲労感のままに湯に体を沈めた。


少し熱めの温度に無意識にため息が溢れる。


「親父臭いな」

「お前に言われたくはない」

唇を尖らせて反発すると、聖川が吹き出す。つられて笑いながらも、不意に悪戯心が沸いて、神宮寺は聖川に近付いた。


「なあ、どうだった?初旅行」


神宮寺が耳元で囁くと、聖川は、ん、と肩をすくめた。


「楽しかった。このまま時が止まって欲しい」


柔らかな視線には幸福感が滲んでおり神宮寺は嬉しいような恥ずかしいような心地がした。


口元が緩むのを隠すように、聖川をぎゅっと抱き寄せ、首筋に噛みつく。


「しよう、ここで」


努めて冷静な誘い文句を甘えた声で発すると、聖川の腕が背に回った。


時は進む。けれど、二人で過ごすこの日々は、きっと明日も悪くはない。






水音に脳内が支配される。神宮寺は浮力に抗いながら腰を沈めた。


「ん、ひじりか、」


名前を呼ぶ前に舌先を絡めとられた。それほど熱くないお湯だったが、湯に上がったせいか頭がぼんやりとしてきた。


「神宮寺っ、」


聖川が切羽詰まった声を上げ、神宮寺の腰をぐっと引き寄せる。固く猛った屹立が、最奥に埋まって、神宮寺の背中に電撃が走った。


「ぁっ、……!」


ぎしぎしと骨が鳴るほど、激しく揺さぶられながら、視界の端に月が過った。


黒灰色の薄雲が、ゆっくりと晴れていき、黄色い月が幻想的に浮かび上がる。


「聖川、見てみろよ、」

「ん?」


吐息混じりに指差すと、そちらを見上げた聖川が、満足そうに微笑んだ。


「綺麗だな」


「ああ、」


月光に薄く照らされる聖川の表情が儚げに見えて、神宮寺はさらに体を密着させた。


「どうする?月が見ている」


聖川の優しい声が耳を撫ぜる。互いに限界が近いことを理解していた。


「見えないさ」


神宮寺は挑発的に笑み、彼のナキボクロに舌を這わせた。


「神宮寺」

熱っぽく名前を呼ばれたのを切っ掛けに、二人高みに昇っていった。


その声も、視線も、身体も全て、俺のものだ。


月明かりから隠すように、神宮寺は聖川の身体を掻き抱いた。


約束の後に。


生まれた感情は、今まで感じたことのない傲慢な独占欲だった。


湿った夜風を肌に受けながら、神宮寺は初めての感情を噛み締めていた。


END♪♪♪





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